STP分析は、マーケティング戦略の策定に利用されるフレームワークです。市場調査からターゲットの選定、市場ポジションの確立まで一貫して行えるため、多くの企業が採用しています。ただし市場の表面的な情報だけを調査しても、効果の高い戦略に結びつかない可能性があります。そのため、成果を挙げている企業の事例をリサーチして、分析の精度を高めていきましょう。
今回は、STP分析の意味や重要性、企業事例から学ぶポイントを重点的に解説します。記事の後半ではSTP分析の注意点を紹介しているので、ぜひ参考にしてください。また、STP分析の概要・基本的なやり方については以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
マーケティングのSTP分析とは?
STP分析とは、マーケティング戦略の立案・改善などに使用されるフレームワークのことです。市場の細分化、ターゲット選定、そして自社ポジションの確立を目的にした分析方法であり、以下の要素で分析を行います。
STP分析を活用することで顧客のニーズや競合他社の状況を把握し、それらに基づいた的確な意思決定が可能になります。つまりSTP分析は、自社の強みを発揮するマーケティング戦略を構築する際に有効です。
また「SWOT分析」や「PEST分析」など他のフレームワークを併用することで、分析の精度をより高められるでしょう。分析に役立つフレームワークは以下の記事で紹介しているので、あわせて参考にしてください。
STP分析がマーケティングで重要な理由
STP分析が重要とされる理由には、自社の強みを「誰に・どこで・どのように」と論理的に判断できることが挙げられます。近年、情報の多様化によって市場や消費者のニーズが細分化されており、STP分析を使用することでターゲットに的確なアプローチが可能です。
例えばSNSで検索をするユーザーは視覚的に理解できる画像や動画を好む傾向があり、情報を簡潔に伝えるコンテンツが求められます。一方でGoogle ChromeやYahoo! JAPANなどの検索エンジンを利用するユーザーには、論理的な文章で説明することが大切です。
つまり、STP分析は他社との差別化を図り、ターゲットに適したアプローチ方法を見つけるために必要なフレームワークです。
STP分析のやり方3ステップ
STP分析は、以下の手順で調査・分析を行います。
それぞれのリサーチ方法は人によって異なります。そのため、今回紹介する方法は一つのテンプレートとして活用してください。
1.Segmentation(セグメンテーション)
STP分析の最初のステップは、市場の細分化を行うことです。自社が参入する市場の規模や他社の商品やサービス、消費者のニーズなどを調査しましょう。例えば飲食店を開業する場合、人口の多い都心部には競合が多いと考えられます。対象エリアを地方に設定したり、特定のジャンルに特化したりすることで、他社との差別化が可能になるかもしれません。
つまり、さまざまな要素を基に市場を細分化し、状況を把握することがSTP分析の最初のステップです。また、既に商品やサービスを提供している場合は、自社製品と競合製品の特徴を比較しながら、適切な市場を探しましょう。
2.Targeting(ターゲティング)
次に、自社のターゲットとなる消費者を選定します。仮に地方で飲食店を開業する場合、以下の情報を分析するとよいでしょう。
- 対象エリアの競合の数やサービス内容
- 対象エリアのユーザー属性
- 対象エリアの地域特性
例えば対象エリアの富裕層をターゲットにする場合、料理の質だけではなく、サービスの品質や店舗の内装などに自社の強みを生かせるか考えましょう。
一方で、子育て世代をターゲットにするなら、「子どもが楽しめるスペースの設置」や「一時的な託児サービスの導入」なども効果的な戦略と考えられます。自分たちのサービス内容と強みを考慮して、市場にいる消費者からターゲットを選びましょう。
3.Positioning(ポジショニング)
最後に、市場ポジションの選定を行います。市場にいる他社の立ち位置を分析して、自社のポジションを確立しましょう。飲食店の場合、「価格」や「品質」、「営業時間」や「料理の種類」などが分析の要素として挙げられます。
例えば深夜まで営業している競合が少ないエリアでは、深夜営業を実施することで自社のポジションを確立できるでしょう。対象エリアに高級店が存在しない場合、「高価格×高品質」のポジションが狙えるかもしれません。
ただし市場ポジションの選定では、競合だけでなく、消費者の需要も考慮することが大切です。消費者の期待や課題、競合の人気度やサービス内容を分析して市場のバランスを見極めながら、自社の強みを生かせるポジションを見つけましょう。
STP分析を活用した企業のマーケティング事例
ここからは、STP分析を活用した企業のマーケティング事例を見ていきましょう。今回は、以下の3社について解説します。
上記の3社は大手企業のため、人によっては「規模が大きすぎて参考にならないかも……」と考えるかもしれません。しかし、企業の取り組みを深く観察することで、「大手が市場でポジションを確立できている理由」が見えてきます。自社に導入できる施策があるかもしれないので、ぜひ参考にしてください。
UNIQLO
UNIQLOは、LifeWear(究極の普段着)をコンセプトに、高品質な製品を低価格で販売しているファッションブランドです。世界中の素材メーカーと直接交渉を行い、質の高い素材を低価格で大量調達できることが一つの強みです。また、ファッション業界で高い評価を受ける「クレア・ワイト・ケラー 氏」と協業を開始し、2023年9月に新たなウィメンズコレクション「UNIQLO:C」を発表しました。
さらに、子どもが自由に遊べるエリアやカフェを設置するなど、地域ごとのニーズに応じたサービスも提供しています。つまり、自社に足りない要素を他社との協業で補ったり、エリアごとに適したサービスを展開したりしていることが、UNIQLOの強みの一つと考えられるでしょう。
参考:
株式会社ファーストリテイリング「有価証券報告書 四半期報告書」より
株式会社ファーストリテイリング「BUSINESS REVIEW 2024」より
FAST RETAILING公式サイト「ユニクロの事業戦略」より
FAST RETAILING公式サイト「ユニクロのビジネスモデル」より
マクドナルド
マクドナルドは、高品質な食事やサービスをリーズナブルな価格で提供している企業です。子どもから大人まで人気の飲食サービスであり、長く親しまれる工夫が見受けられます。例えば消費者からの信頼を高めるため、マクドナルドはすべての商品の原材料や原産国を開示しています。平日のお得なランチセットメニュー「昼マック」や、17時以降の「パティ2倍」なども、消費者のニーズに応じたサービスの一例です。
また、併設されたカフェコーナー(McCafé by Barista)では、品質の高いドリンクやフランス産のマカロンなどを提供しており、コミュニティスペースとして利用する消費者も少なくありません。もちろん、高品質な素材を安価で大量に仕入れられることはマクドナルドの強みの一つです。しかし、消費者のニーズに柔軟に対応する姿勢こそ、マクドナルドが成長を続ける理由と考えられるでしょう。
参考:
日本マクドナルドホールディングス株式会社 有価証券報告書「2024年 12月期 第2四版期報告書」より
日本マクドナルドホールディングス株式会社「投資家の皆様へ」
マクドナルド公式サイト「McCafé by Barista」より
スターバックス
スターバックスは、高品質なドリンクやおしゃれな空間などに定評のある企業です。国内のほとんどの店舗が直営店であり、教育マニュアルや商品の品質を一貫して管理していることが特徴です。また、好みに合わせたトッピングの追加や、店員からの感謝のメッセージなど、消費者が喜ぶ工夫がされていることも人気の理由といえるでしょう。
さらに、スターバックスは価格変動が激しいコーヒー豆を、「先物契約(仕入れ金額を事前に固定する契約)」で仕入れています。コーヒー豆の価格が下落した際には支援を行ったり、報酬の支払いを徹底的に透明化したりするなど、生産者への配慮も大切にしています。すなわちスターバックスはサービス力だけではなく、生産者との関係性を大事にしながら「予測されるリスク」に対しても適切な対策を講じている企業なのです。
参考:
Starbucks Corporation「UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION Washington, DC 20549 Form 10-K」
スターバックス公式サイト「コーヒーへのこだわり」より
スターバックス公式サイト「VISION」より
STARBUCKS STORIES JAPAN「ともにコーヒーのサステナブルな未来を作る」より
STARBUCKS STORIES&NEWS「Farmer Support Centers help ensure coffee’s future, farm by farm」より
事例から学ぶSTP分析をマーケティングに生かすポイント
前述の事例では、大手企業のさまざまな取り組みについて解説しました。それらを踏まえて、STP分析をマーケティングに生かすポイントを見ていきましょう。
今回は、上記の3つを紹介します。
表面化していない企業努力を分析する
強力な他社が市場に存在する場合は、「競合がポジションを確立できている理由」を分析してみましょう。例えば多くの大手企業は、「大量発注による仕入れコストの削減」が強みですが、より深く調査すると、他にも多数の取り組みが見られます。
例えばマクドナルドは時間帯によって違うメニューに変更することで、消費者に最適なサービスを提供しています。UNIQLOは業界で高い評価を受けるデザイナーとの協業を通して、自社製品に新しいトレンドを誕生させました。
このように、市場でポジションを確立している企業は、表面的な強みだけではなく、裏側には多くの企業努力が存在します。成果を挙げている会社の成功要因を分析することで自社の戦略の方向性が明確になり、より効果的な戦術が見つかるでしょう。
強みを生かす工夫を考える
ビジネスを継続するには、自社の強みを発揮する工夫が大切です。例えば大量発注による仕入れコストの削減ができる大手企業には、高品質な製品を低価格で提供できる強みがあります。しかし大量発注には在庫ロスのリスクがあるため、消費者に購入してもらう取り組みが重要です。
例えばマクドナルドの「パティ2倍」は消費者のニーズを満たすだけではなく、コストを抑えながら在庫ロスのリスクを解決するアイデアとも考えられます。UNIQLOのように実績のあるデザイナーとの協業でブランド力を伸ばし、消費者の購買意欲を刺激することも効果的な戦略です。
つまり自社の強みを発揮するためには、「強みを生かし続ける戦略」が大切です。最適な施策はトレンドや消費者のニーズによって変化するので、市場の動きは常に把握しておきましょう。
社会的要因の対策を行う
為替レートの変動や社会トレンドなどは、一企業ではコントロールできないことがほとんどです。しかし社会的な要因はビジネスに悪影響を与える可能性があるため、事業を継続させるためにも事前に対策を練ることが大切です。
例えばスターバックスは、仕入れ価格が変動しやすいコーヒー豆を固定価格で仕入れる契約をしています。これによりコーヒー豆の値段が高騰しても、スターバックスは商品の大幅な値上げをする必要がなく、安定した価格でサービスを提供し続けることが可能です。
すべての問題を事前に察知するのは難しいですが、「予想できるリスク」に対しては、できる限り対策を講じておきましょう。
STP分析でマーケティング戦略を考える際の注意点
最後に、STP分析を考える際の注意点を紹介します。
露骨に空いているポジションに注意する
多くの市場には、「明らかに空いているポジション」が存在します。しかし、露骨に空いているポジションには、リスクが潜んでいるかもしれません。例えば「高品質×低料金」のポジションは企業の利益率が低く会社の負担が大きくなるため、競合が参入していないポジションと予想できるでしょう。
また他社がまったく存在しない市場はブルーオーシャンの可能性があるものの、その市場には消費者がいないリスクも考えられます。つまり自社の立ち位置を選定する際は、しっかりと調査を行い論理的な意思決定をすることが大切です。
実現可能な施策からスタートする
競合他社を調査していると、自社の勝ち筋が見出せる可能性は十分にあります。しかし、戦略の立案では、実現できる可能性に目を向けることが大切です。
例えば自社の「品質」が市場で高い成果を挙げられるとしても、競合より資金力が劣っている場合、広告やPRなどの宣伝力で優位に立てず知名度が向上しないかもしれません。一方で資金が潤沢でも他社より品質が劣っていると、消費者からクレームが発生する原因になるかもしれません。
つまり、現時点のリソース(内部環境)と競合の強さや消費者のニーズ(外部環境)のバランスを考慮して、マーケティング戦略を考えることが大切です。市場にチャンスが見つかった場合は適切な分析を行い、焦らず慎重に判断しましょう。
STP分析を活用してマーケティングの精度をあげよう
STP分析はマーケティング戦略の策定に重要なフレームワークであり、自社ポジションの確立や適切なターゲット選定に役立ちます。しかし、市場の表面にある情報だけを分析しても、期待する成果につながらないかもしれません。したがって、さまざまな企業事例を参考にして、自社が実施する取り組みを考えることが大切です。
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