マーケティング戦略は、ビジネスの成果を左右させる重要な要素です。また近年ではスモールビジネスを始める方が増えており、マーケティングの重要性は幅広く認知されています。一方で、ビジネスの経験が浅い場合「マーケティング戦略って具体的に何をしたらいいの……?」と悩むこともあるでしょう。
そこで今回は、マーケティング戦略の具体的な意味や重要性、戦略の立て方などについて解説します。記事内では戦略の策定に役立つフレームワークや企業事例も紹介しているので、実践的なマーケティング戦略を学びたい方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
マーケティング戦略とは?
ビジネスにおけるマーケティング戦略とは、自社が展開する事業のターゲット選定や市場調査、販売手法やPR方法などのプロセス全般のことです。簡単にいうと「誰に・何を・どのように提供するかを考える作業」といえるでしょう。マーケティングそのものの定義にはさまざまな解釈がありますが、日本マーケティング協会では以下のように定義されています。
(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。
注 1)主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。
引用:公益社団法人日本マーケティング協会 「34年振りにマーケティングの定義を刷新」より
注 2)関係性の醸成には、新たな価値創造のプロセスも含まれている。
注 3) 構想にはイニシアティブがイメージされており、戦略・仕組み・活動を含んでいる。
ビジネス領域でのマーケティングは、利益率や認知度の向上を目的にすることが一般的です。しかし事業の目的にかかわらず、「新しい価値を生み出して社会に浸透させるプロセス」はマーケティングに該当します。言い換えると、マーケティング戦略は有益なものを世に広める施策全般とも考えられます。
ビジネスにおけるマーケティング戦略の重要性
情報が多様化する近年では、マーケティング戦略はビジネスで成果を挙げるために非常に大切です。なぜなら、適切なアプローチをしないとターゲットに情報が届かないからです。たとえば、自社のターゲットが日常的に使用しているSNSを理解することで、情報を発信するべきメディアが選定できます。
さらに、ターゲットの年齢や職業、抱えている悩みなどを調査することで、適切なコンテンツをユーザーに提供できるでしょう。つまりマーケティング戦略は、「必要な情報を適切な人に届ける」ためにも大切なのです。
マーケティング戦略の基本的な立て方・考え方
マーケティング戦略の立て方は、販売する商品・サービスや、ビジネスの目的によって異なります。そのため、マーケティング戦略に正解はありません。しかしビジネスの経験が浅い方が感覚的に戦略を立てると、期待している成果につながらない可能性があります。そこで、本章では一般的なマーケティング戦略の立て方や考え方を紹介します。
それぞれ順番に見ていきましょう。
1.事業の目的を明確にする
具体的な戦略を考える前に、事業の目的を明確にしましょう。理由は、マーケティングのゴールに必要な要素を理解できるからです。たとえば利益率を高める場合は新規顧客の獲得だけではなく、リピート率の向上や開発コストの削減などにも目を向ける必要があります。幅広く認知されることが目的であれば、SNSの発信内容やPR方法など「認知してもらう方法」に重点を置くことが大切です。
さらに、事業のフェーズによっても適切な施策は異なります。まずは現在の目標を数値で具体化し、目標達成に必要な要素に基づいて最適な戦略を立てましょう。
2.内部・外部の環境を分析する
内部環境や外部環境は、製品開発や販売手法を考えるうえで重要な要素です。
名称 | 内容 |
---|---|
内部環境 | 自社のリソース(人材・時間・予算など) |
外部環境 | 競合の数 競合の強さ 市場規模 市場にいる消費者の人数など |
たとえば効果的な施策を思いついても、労力や資金が不足しているとマーケティング戦略の実行は難しいかもしれません。市場の動向や競合の強さを分析しなければ、消費者に関心をもたれない可能性があります。つまりマーケティング戦略は、自社のリソース(内部環境)と市場の動き(外部環境)の両方を理解することが大切です。投資できる予算と時間を考慮しながら市場を見据えて、持続可能な戦略を考えましょう。
3.ターゲットと市場のポジションを選定する
内部・外部の環境調査まで完了したら、具体的なターゲットと市場でのポジションを選定しましょう。たとえばターゲット選定では、消費者のニーズを深く理解することで、相手に刺さる訴求方法が見つかります。競合のいないポジションを探す際は、「商品の価格」「サービスの質」「ターゲット属性」など、複数の要素をもとに分析することで競合他社と違う立ち位置を確立できるでしょう。
逆にいうと、ターゲットや市場ポジションの選定を間違えると、競合と比較されて価格競争に巻き込まれたり、消費者に評価されなかったりするリスクがあります。したがって具体的なアクションプランを作る前に、「誰に・何を・どのポジションで発信するか」を明らかにしておきましょう。
4.具体的な施策を策定する
ここまでのプロセスが完了したら、具体的な戦略を考えましょう。マーケティング戦略にはさまざまな種類が存在するので、ターゲットに適した施策を考えることが大切です。たとえば、SNSを頻繁に利用しているユーザーを対象にするなら、ターゲットが利用するSNSでの情報発信が効果的です。もし予算に余裕があるのならSNS運用だけではなく、広告を活用したメディア戦略も検討するとよいでしょう。
ただし、マーケティング戦略の成功は調査内容の質によって左右されます。もし自社にあった施策が見つからない場合は、戦略の立案を急がず1〜3の工程を見直してみてください。
マーケティング戦略の策定に役立つフレームワーク5選
マーケティング戦略の成功確率は、「調査内容の質に左右される」と前述しました。しかし、いざ戦略を策定するにあたって「調査や分析ってどうやるの……?」と悩む方がいるかもしれません。競合調査や市場調査が苦手な方は、以下で紹介するフレームワークを利用するとよいでしょう。
それぞれの特徴を解説するので、ぜひ活用してください。
3C分析
3C分析とは、以下の要素で市場規模や市場でのポジションを可視化する分析手法のことです。多角的な視点で調査できることが特徴であり、下図の要素で分析を行います。
3C分析とは、以下の要素で市場規模や市場でのポジションを可視化する分析手法のことです。多角的な視点で調査できることが特徴であり、下記の要素で分析を行います。
要素 | 内容 |
---|---|
Company(自社) | 自社の強み・弱み 顧客のレビューや評価など |
Competitor(競合他社) | 競合他社の強み・弱み 競合他社の戦略 競合他社の製品価格 競合他社の評価など |
Customer(顧客・市場) | 市場の顧客のニーズや属性 市場規模 市場の成長率など |
たとえば競合他社の弱みを分析すれば、他社には真似できない戦略が見つかるかもしれません。消費者のニーズを深掘りすることで、自社の強みを適切にアプローチする施策が導き出せるでしょう。つまり、あらゆる方面から調査・分析をすることで、市場に隠れているチャンスを見つけられます。3C分析の具体的なやり方は以下の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。
SWOT分析
SWOT分析は、自社の内部環境と外部環境の分析に特化したフレームワークです。
要素 | 内容 |
---|---|
Strength(強み) | 市場・競合他社に対する自社の強み(内部環境のプラス要因) |
Weakness(弱み) | 市場・競合他社に対する自社の弱み(内部環境のマイナス要因) |
Opportunity(機会) | 市場での自社商品・サービスに与えるポジティブな要因(外部環境のプラス要因) |
Threat(脅威) | 市場での自社商品・サービスに与えるネガティブな要因(外部環境のマイナス要因) |
上記の4つで分析を行い、多角的な視点で自社が置かれている状況を調査します。たとえばマーケティング戦略で期待している成果が出ていない場合、内部環境を分析することで改善策が見つかる可能性があります。外部環境の調査を実施すれば市場の動向やトレンドを把握でき、いち早く対策を講じられるでしょう。
SWOT分析のやり方は以下の記事で詳しく解説しているので、内部環境と外部環境の分析方法を詳しく知りたい方は、こちらも参考にしてください。
STP分析
STP分析は、マーケティング戦略の立案から実行までのプロセス開発で使用されるフレームワークの一つです。
要素 | 内容 |
---|---|
Segmentation(セグメンテーション) | 市場の細分化 |
Targeting(ターゲティング) | 対象とする市場(顧客)の選定 |
Positioning(ポジショニング) | 市場での立ち位置を探す |
上記の3つの要素で戦略を考えるフレームワークであり、ターゲット選定から市場ポジションの確立までに役立ちます。「販売価格」や「品質」などを軸にしたマトリクス図を作成することで、自社と競合他社の立ち位置を可視化することが可能です。
ただし、明らかに空いているポジションにはリスクが潜んでいる可能性があります。たとえば、「低価格」「高品質」のポジションは利益率が低くなり、事業者の負担が大きくなるでしょう。選ぶ市場によっては、空いているポジションに消費者がいない可能性があります。これらのリスクを防ぐためにも、STP分析は非常に役立ちます。具体的な考え方や実施方法は以下の記事で解説しているので、ぜひ参考にしてください。
PEST分析
PEST分析は、自社の外部環境の分析に特化したフレームワークの一つです。
要素 | 内容 |
---|---|
Politics(政治的要因) | 法規制の変更 税制の変更など |
Economy(経済的要因) | 為替レートの変動 経済の成長率 金利の変動 失業率など |
Society(社会的要因 ) | トレンドの変化 生活習慣の変化 価値観の変化など |
Technology(技術的要因) | 技術進歩による社会への影響 特許など |
上記の要因は、外部環境がもたらす社会への影響を表しています。つまりPEST分析は「自社ではコントロールできない要因への対策」に役立ちます。たとえば近年では円安による燃料や原材料のコスト高騰分の価格転嫁が遅れ、利益率の低下に苦しむ企業がさまざまなメディアで報道されていました。これらはEconomy(経済的要因)が原因であり、企業だけの力では解決できない問題です。
しかし「起こりうるリスク」を予想できていれば、事前に対策を講じることが可能です。PEST分析のやり方や業界の事例は以下の記事で解説しているので、参考にしてください。
PDCA
PDCA(PDCAサイクル)は前述までと違い、マーケティング戦略の企画から評価・改善までのプロセスをサイクル化したフレームワークです。
- Plan:計画
- Do:実行
- Check:測定・評価
- Action:改善・対策
上記のプロセスを順番に繰り返すことにより、マーケティング戦略の精度を着実に高めることが可能です。たとえばマーケティング戦略の成果が予想を下回っている場合は、データを分析して課題点・改善点を調査します。
フィードバックをもとに仮説を立てることで、効果的な戦略に軌道修正できるでしょう。一定の期間で施策を見直して、より精度の高いマーケティング戦略に成長させてください。
マーケティング戦略の成功事例
適切なマーケティング戦略は、企業や事業者によって異なります。しかし、さまざまな企業の成功事例を知ることで、自社のマーケティング戦略立案のヒントが見つかるかもしれません。ここでは、以下の3社のマーケティング戦略の事例を紹介します。
また以下の記事では、企業のマーケティング成功事例をより多く解説しています。身近な例も紹介しているので、ぜひマーケティング戦略の学習に活用してください。
ユニクロ
UNIQLOは、O2O(Online to Offline)マーケティングに取り組んでいることが特徴です。O2Oマーケティングとは、「オンラインからオフラインへの移動」「オフラインからオンラインへの移動」を目的にしたマーケティング戦略のことです。具体的には「LINEクーポンを発行して来店を促す取り組み」や「アプリで商品を店舗に取り置きできるシステム」などが挙げられます。
またUNIQLOのアプリではユーザーの購買履歴に関連する情報が配信されたり、店舗の在庫状況を確認できたりする顧客に有益な機能が実装されています。InstagramではUNIQLO商品のコーディネートや期間限定グッズの告知などがされており、複数のメディアを利用して顧客との接点を増やしていることも特徴です。
参考:
UNIQLO公式サイト「ユニクロアプリ」より
UNIQLO公式Instagram「uniqlo_jp」より
ハーゲンダッツ
ハーゲンダッツは、自社商品を魅力的にアピールする情報発信が特徴です。たとえばInstagramでは、商品の美味しさだけでなく、アイスクリームを視覚的に楽しめる映像コンテンツが投稿されています。X(旧Twitter)では消費者が参加できるイベント「フォローキャンペーン」を定期的に開催し、認知度の拡大にも積極的に取り組んでいます。
またハーゲンダッツのLINE公式アカウントでは、製品やギフト券を送れる機能が実装されており、「自分で食べる」以外の購入選択肢を増やしている点も画期的な戦略といえるでしょう。
参考:
「ハーゲンダッツ公式サイト」より
ハーゲンダッツ公式Instagram「haagendazs_jp」より
ハーゲンダッツ公式X(旧Twitter)「@Haagen_Dazs_JP」より
Family Mart
Family Martは、デジタルサイネージ広告を活用して新たなビジネスモデルを展開しています。従来の商品販売ではなく店舗に広告枠を設置することで、新しい収益モデルを確立しました。この手法は「リテールメディア」と呼ばれる広告手法であり、近年注目されているマーケティング戦略の一つです。
自社のスペースを有効活用したマーケティング戦略なので、膨大なコストが発生する商品開発は必要ありません。またコンビニエンスストアは地域に根付くサービスでもあり、特定のエリアに広告を配信したい企業にとってもFamily Martの広告枠は魅力といえるでしょう。
参考:
ファミリーマート公式サイト「ファミリーマート店内メディア 媒体資料」より
ファミリーマート公式サイト「店舗販促ツールと店頭サイネージの連動で商品訴求力を最大化 FamilyMartVison×ファミリーマート売場連動連動企画」より
事例から学ぶマーケティング戦略を策定するポイント
マーケティング戦略の成功要因は多数存在します。なかでも、施策で成果を挙げている企業には、以下の共通点があると考えられます。
これらはマーケティングの重要なポイントなので、しっかりと理解しておきましょう。
消費者の分析を徹底する
顧客が利用するSNSや消費行動を分析することで、新しいマーケティング戦略が見つかる可能性があります。たとえばハーゲンダッツのLINE公式アカウントでは、友人に商品をLINEアプリからプレゼントできる機能が実装されています。この機能は「消費者が購入する手間」という課題と「プレゼントしたい」というニーズの両方を解決できることが特徴です。
UNIQLOのアプリでは「消費者が求める情報だけを提供して顧客満足度を高める」という工夫がされています。一方でFamily Martは「ターゲット」を「広告を出稿したい企業」にすることで、新しい収益モデルを確立しました。
つまり、消費者やターゲットのニーズを深く分析することで、自社に適したマーケティング戦略を導き出せるのです。
データをもとにテストを実施する
新商品の開発や広告運用などでは、さまざまなテストが実施されています。たとえばUNIQLOでは、アップデートされた商品のモニター調査を定期的に行い、消費者の声を集めています。Web広告を利用する企業であれば、複数のコンテンツを作成してA/Bテストを実施し、マーケティング効果を測定することが一般的です。
データをもとにテストを繰り返すことでマーケティング戦略の精度が着実に向上し、施策の効果を高めることにつながるでしょう。自社の施策で成果を挙げるには、データを集めながら仮説と検証を繰り返すことが大切です。したがってマーケティング戦略を考える際は、データの収集方法も決めておきましょう。
感情的な要素にも目を向ける
ユーザーの購買意欲を刺激するには、「相手の感情にフォーカスする」ことが重要です。というのも、商品やサービスの特徴だけを紹介しても、消費者は魅力を感じない可能性があります。たとえばハーゲンダッツのSNSでは、アイスクリームを視覚的に楽しめる動画コンテンツが投稿されています。投稿のキャプションにおいても、文章の構成や雰囲気、絵文字の使い方次第で読み手の印象は変わるでしょう。
つまりマーケティング戦略は「施策」だけでなく、コンテンツのデザインや文章の書き方にもこだわることが大切なのです。
マーケティング戦略の策定における注意点
最後に、マーケティング戦略の策定における注意点を紹介します。
順番に解説します。
事業者によって適切な施策が異なる
ここまで解説したように、販売する商品やサービス、ターゲットによって最適なマーケティング戦略は異なります。つまりマーケティング戦略で成果を挙げるには、市場分析や消費者の理解が非常に大切です。
またマーケティング戦略にはさまざまな手法があり、それらを学ぶことでターゲットに適した施策が見つかるかもしれません。本やスクールで学習することも、マーケティングの実践的なスキルを習得するのに有効です。質の高い情報をインプットして、自社の事業にあったマーケティング戦略を考えましょう。
数値化できない情報を整理する
ビジネスでは数値化が難しい指標が数多く存在します。たとえば「顧客満足度」や「サービスの品質」などは感情的な要素なので、測定や数値化が困難です。しかし、数値化できない要素から目を背けると、事業に悪影響を与える可能性があります。したがって、数値化が難しい情報は工夫して可視化することが大切です。
たとえば「自社に対する満足度」を5段階評価で回答するアンケートを実施すれば、顧客満足度をある程度数値化することが可能です。クレームの内容を「品質」「接客」などいくつかの種類に分類・整理して、クレーム数をそのまま数値に置き換える手法を採用する企業も少なくありません。数値化できない情報には事業を成長させるヒントが隠れているので、評価体制は整えておきましょう。
マーケティング戦略で事業を成長させよう
マーケティング戦略で成果を挙げるには、市場の分析や消費者の理解が大切です。フレームワークや企業事例などを参考にすることで、適切な戦略につながるヒントが得られるでしょう。ただし「コンテンツの品質」や「数値化できない情報」も重要なので、戦略だけに頼らずバランスを意識することが大切です。
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