MECE(ミーシー)とは、「漏れなく・ダブりなく」を意味する思考方法のことです。ロジカルシンキングの基本となる概念で、市場調査や売上拡大などさまざまなビジネスシーンで活用されています。
本記事ではMECEの基本的な考え方や具体例をはじめ、ビジネスとの関係性、思考法におけるポイントなどを詳しく解説します。MECEで考える際のフレームワークも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
MECEとは?
MECE(ミーシー)とは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略称です。情報のグループ分けに使用される思考方法のことで、それぞれMutually(互いに)、Exclusive(重複せず)、Collectively(全体に)、Exhaustive(漏れなく)という意味を持ちます。
日本では「漏れなく・ダブりなく」の意味で用いられることが多く、課題解決に必要な要素を網羅しつつ、被った要素がないように整理する際に役立ちます。
MECEはロジカルシンキングの基本
MECEは、ロジカルシンキング(論理的思考)の基本となる概念のひとつです。ロジカルシンキングとは、物事を一貫した筋道に沿って整理し、矛盾や不合理なく課題解決を図る思考方法のことを指します。
ロジカルシンキングでは発生した課題を客観的に把握し、正確に分析することが大切です。MECEによって情報を漏れなく・ダブりなく整理することで、課題の原因究明や解決をスムーズに進めることができます。
つまりMECEはロジカルシンキングの一種であり、最も基本的な思考方法であると理解しておきましょう。
MECEのわかりやすい例
MECEに情報を分析するなら、漏れなく・ダブりなく分類することが前提です。ここではMECEが当てはまる具体例を見ていきましょう。
たとえば商品のターゲット層を下記のように世代別に分類したと仮定します。
- 0~20歳
- 21~40歳
- 41~60歳
- 61歳以上
このようにグループ分けした場合、全人類を対象にしても必ずいずれかの区分に該当するため漏れも重複もない「MECEな状態」だと判断できます。
逆にMECEの悪い例としては「漏れもダブりもある」「漏れはあるがダブりはない」「漏れはないがダブりがある」という3パターンが考えられます。下記に各パターンの悪い例を記載しているので、ぜひ参考にしてください。
【漏れもダブりもある】
全国の学生を対象として下記のように分類した場合、漏れもダブりもある状態なのでMECEではありません。
- 小学生
- 中学生
- 高校生
- 予備校生
予備校生の大半には現役の中学生や高校生が含まれるため、ダブりが生じています。また大学生・専門学生といった分類が漏れているので、漏れもダブりもある状態だと言えるでしょう。
【漏れはあるがダブりはない】
つづいて「漏れはあるがダブりはない」例をご紹介します。たとえば、社内の労働者を雇用形態によって下記のように分類したとしましょう。
- 正社員
- パートまたはアルバイト
この場合、労働者の雇用形態はひとつのためダブりはありません。しかし契約社員や派遣社員といった雇用形態の労働者はどちらの区分にも該当しないため、漏れが生じています。
【漏れはないがダブりがある】
自社商品の顧客ターゲットを下記のように分類した場合は「漏れはないがダブりがある」状態と言えます。
- 子ども向け
- 大人向け
- 男性向け
- 女性向け
- 若者向け
- シニア向け
全世代の顧客ターゲットは網羅できていますが、大人向けのなかに男性・女性が含まれるように互いにダブりが生じています。
なぜMECEの思考法がビジネスにおいて重要なのか
ビジネスの現場では、常に発生する課題を解決することが求められます。複雑な構造をした課題も多く、やみくもに対処を進めても、根底にある問題点を見つけるのは難しいでしょう。
そのような時にMECEの考え方を活用すれば、課題の原因を論理的かつシンプルに整理することが可能です。問題を細分化できるだけでなく、多方面から網羅的に解決策を検討できるので、効率的に課題解決を進められます。
「本質的な課題は何か」を考えやすくなるので、マーケティングや営業といったビジネスの場面では欠かせない考え方です。
MECEにおける基本的な考え方
MECEを意識したアプローチには、大きく「トップダウンアプローチ」と「ボトムアップアプローチ」の2つの方法があります。
課題解決の思考を巡らせていると、つい視野が狭まってしまいますが、MECEでは「全体集合」の考え方が大切です。俯瞰して全体を見ることで課題解決に必要な要素を「漏れなく・ダブりなく」整理できるので、正しいアプローチ方法を導けるようになるでしょう。
ちなみに全体像を把握するためのフレームワークをロジックツリーと呼び、各要素について深堀りしたいときに重宝します。MECEではトップダウンアプローチが基本ですが、全体像が不明瞭な場合はボトムアップアプローチで考えるのも有効です。
トップダウンアプローチ
トップダウンアプローチとは、最初に事象の全体像を捉え、課題や原因といった切り口から全体を構成する要素を分類していく方法です。全体像を把握して大まかな枠組みを決定し、そこに詳細の構成要素を当てはめていくため、演繹的(えんえきてき)なアプローチとも呼ばれています。
トップダウンアプローチでは全体を俯瞰して考えられるので、ゴールを意識しやすいのがメリットです。事象の全体像が明確な場合や分類方法がはっきりしている場合に有効な方法と言えるでしょう。
逆に全体像が不明瞭な場合は、要素を分類する際に漏れやダブりが生じやすくなる恐れがあります。MECEの思考を未知の領域で0から始める場合、トップダウンアプローチは向いていないので注意してください。
ボトムアップアプローチ
ボトムアップアプローチとは、事象を構成する要素を洗いだしてグルーピングし、全体像を描きながら進める方法です。
トップダウンアプローチとは順序が逆になっており、全体像が分からない場合や分類方法が不明瞭な場合に有効とされています。未知の領域でも思考を始めやすいのが大きなメリットです。
しかし全体像が明確ではない分、要素の漏れやダブりが生じやすい点には注意が必要です。ボトムアップアプローチで進める場合は、思いつく限り徹底的に構成要素を洗い出し、適切な分類方法でグループ化するようにしてください。
MECEに分解する際の思考法におけるポイント
MECEに要素を分類する際は、下記4つのポイントを把握しておくことが大切です。
漏れなくダブりなく物事を思考するには、どのような視点・切り口で考えるかが重要になります。それぞれ詳しく解説するので、ぜひ最後までチェックしてみてください。
要素分解
要素分解とは、物事の全体像を捉えてから細かな構成要素を分解していく方法です。分解した要素の合計が全体像になるよう、枠組みごとに部分集合へと切り分けていきます。
足し算型や積み上げ型と呼ばれることもあり、要素分析や解決策の検討に役立つのが特徴です。
時系列・ステップ分け
時系列・ステップ分けは、その名の通り作業を時系的・段階的に分解する方法のことです。たとえば新たな部品を販売する時は「仕入れ→加工→製品化→出荷」、顧客の購買行動を理解したい時は「注目→興味→欲求→記憶→行動」のように段階的に分解して考えます。
代表例としてはバリューチェーンやAIDMAなどが挙げられ、ステップによって分解することで複雑な課題やタスクを分析しやすくなるのがメリットです。
対照概念
対照概念とは「主観と客観」「固定と変動」「メリットとデメリット」のように、相反する概念を用いて要素を分解する方法です。
対照となる概念を挙げてから、それぞれの因果関係や排他的関係などの切り口で要素を考えていきます。対照となる概念を詳しく分析すれば、問題点や改善点を見つけやすくなるほか、効果的な戦略の立案にも役立つでしょう。
因数分解
因数分解とは、分析の対象を計算式で表現し、それぞれの要素を細かく分解していく方法のことです。足し算・引き算・かけ算・割り算いずれの計算式でも活用でき、それぞれの計算式に応じて足し算型・かけ算型と呼ばれることもあります。
因数分解は要素の相互関係を考慮しつつ、さまざまな切り口から分解できるのが特徴です。たとえば、企業の売上高を「顧客単価×顧客数×リピート頻度」と分解する際に用いられます。
MECEに考えられるフレームワーク5つ
MECEを実践するためには、フレームワークを活用するのがおすすめです。フレームワークを活用することで要素の漏れを防げるだけでなく、チーム内で考え方を共有する際にも役立ちます。
ここでは、MECEに有用な上記5つのフレームワークを確認していきましょう。
PEST分析
PEST分析とは、Politics(政治)・Economy(経済)・Society(社会)・Technology(技術)の4つの要素で分類するフレームワークのことです。市場や競合といった自社を取り巻くマクロ環境を把握したり、洞察したりする際に活用されます。
PEST分析を行えば、外部環境が自社に与えている影響を把握できるだけでなく、将来与え得る影響を予測することが可能です。マーケティング戦略はもちろん、中長期的な事業戦略に役立てられる傾向にあります。
3C分析
3C分析とは、顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)といった3つの要素から企業活動を分析するフレームワークです。外部環境の変化や特徴について把握することで、漏れ・ダブりのない市場分析が可能になり、自社の事業戦略立案に役立ちます。
また自社の製品・サービスや市場ポジションを競合と比較することにより、自社の強みや弱みを把握できるでしょう。3C分析はマーケティング戦略や事業戦略で活用されることが多く、Channel(流通)の要素を加えて4C分析と呼ぶケースもあります。
ファイブフォース分析
ファイブフォース分析とは、業界内での競争・顧客(買い手)の交渉力・サプライヤー(売り手)の交渉力・新規参入業者・代替品の存在という5つの脅威から自社を分析するフレームワークです。
業界への新規参入や新製品開発にあたり、どれほどの収益性を見込めるかを検証する際に活用します。ファイブフォース分析は、競争環境の因果関係を明確にするフレームワークなので、MECEだと判断できるでしょう。
しかし、MECEが成立するのは特定の業界・製品に絞った場合のみなので注意してください。
STP分析
STP分析とは、Segmentation(セグメンテーション)・Targeting(ターゲティング)・Positioning(ポジショニング)の3つの要素で構成されるフレームワークです。顧客主導型のフレームワークで、マーケティング戦略を策定・実行する際に多く用いられます。
STP分析は市場の細分化やターゲットの明確化につながるため、自社の市場シェアの獲得にも重宝するでしょう。常に変化する顧客ニーズに応えるためにも、STP分析で自社のポジショニングを把握することは重要です。
BtoB・BtoC両方に使用でき、新規事業立案における土台を思考する際に便利です。
4P分析
4P分析とは、Product(製品)・Price(価格)・Place(流通)・Promotion(プロモーション)の4つの観点から自社の製品・サービスを分析するフレームワークのことです。
製品の機能性をはじめ、デザイン、販売方法、物流といったマーケティング戦略を構築する際に利用されます。これらの要素を相互的に考えることで漏れ・ダブりのない思考ができ、効率的な販売戦略へとつなげることが可能です。
別名マーケティング・ミックスとも呼ばれており、マーケティングの担当者にとっては欠かせないフレームワークと言えるでしょう。
MECEなどのビジネスに役立つ思考力の鍛え方
MECEといった思考法を鍛えるためには、普段からロジカルシンキングを実践することが大切です。フレームワークを活用しながら繰り返し練習し、MECEに考える習慣を付けていきましょう。日常生活であれば、買い物リストやTodoリストの作成、旅行計画などでMECEを活用するのが有効です。
またロジカルシンキング以外に、クリティカルシンキングやラテラルシンキングを鍛える方法もあります。自分の思考を深掘りするクセをつけたり、先入観を捨てて前提を疑ってみたりと、小さなことから始めていくのがおすすめです。
ロジカルシンキングの成果物は必ずアウトプットし、第三者からフィードバックをもらうようにすると効果的な訓練を続けられるでしょう。
MECE(ミーシー)とはロジカルシンキングの基本となる概念、ビジネスに活用しよう
MECE(ミーシー)とは「漏れなく・ダブりなく」を意味する思考方法のことです。ロジカルシンキングの基本となる概念で、情報をグループ分けする際に役立ちます。MECEを活用すれば問題を細分化し、物事の本質を見抜くことができるので、課題解決を効率よく進められるでしょう。
しかし、MECEをはじめとしたロジカルシンキングの手法には正解がないため、自分だけではうまく取り組めないと感じる方も多いかもしれません。ロジカルシンキングは練習でも身に付けられますが、本格的に思考力を鍛えたいなら実践的に学ぶことがおすすめです。
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