インボイス制度、やらないとどうなる?登録のメリット・デメリットや対応方法も

インボイス制度、やらないとどうなる?登録のメリット・デメリットや対応方法も
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ライター shin
航空系の会社に勤務した後、フリーランスとしての活動を開始。現在は主にWebメディアに携わりつつ海外を転々としている。
エディター Kakuhata Kyosuke
同志社大学 生命医科学部医情報学科卒。在学中、基礎科学や生体情報の取得・制御、プログラミングについて学ぶ。大学院進学後Pythonデータ解析や生体化学を学んだあとライター業を開始。現在はフリーランスとして活動し、キャリア領域のメディアを中心にSEO記事を編集・執筆している。
税理士 / 監修者 高橋和也
大阪市立大学法学部卒業後、クボタ、インテリジェンス等で10年以上営業職に従事。その後、会計知識ゼロで35歳のときに会計業界に転身。2017年に43歳で税理士登録・開業。営業経験を活かしたフットワークの軽さで、都内から関西、四国、九州まで幅広いエリアのお客様をサポート。一般社団法人など非営利団体の税務を得意とし、最近では大学アメリカンフットボール関連の一般社団法人の顧問税理士も務める。また、自身のYouTubeチャンネル「たかはしかずや税理士チャンネル」で一般社団法人やインボイス制度などの情報を発信。共著に『一般法人・公益法人の理事・監事・評議員になったらまず読む本』(忘羊社)。

2023年10月1日から開始されたインボイス制度について、以下のような悩みを持つ個人事業主の方は少なくないのではないでしょうか。

「インボイス制度に対応しなかったらどうなるのだろう?」
「登録しない場合のメリットとデメリットは何だろう?」
「インボイス制度の手続き方法が分からない」

そこで、本記事ではインボイス制度に対応しない場合に知っておきたいことや登録するか否かの判断基準、登録の手順などを解説します。インボイス制度への対応に悩んでいる個人事業主の方は、ぜひ最後まで目を通してみてください。

インボイス制度の登録申請をやらないとどうなる?

まず、インボイス制度に対応しない場合に起こり得ることについて紹介します。結論からいうと、「現在の取引の見直しを要求される場合がある」「新規契約が難しくなる可能性がある」の2つが考えられます。それぞれ解説するので、チェックしてみてください。

取引の見直しを交渉される場合がある

インボイス制度に対応しないことで、取引先から契約内容の見直しを交渉される場合があります。理由は、取引先の金銭的な負担が大きくなる可能性があるからです。

詳しくは後述しますが、インボイス制度に対応していないフリーランスと取引をすると、企業や事業者が納める消費税の金額は大きくなります。そのため、たとえば取引先から報酬の減額や取引の縮小などが交渉されるかもしれません。

なお、取引先が一方的に報酬を減額したりインボイス制度への対応を強要したりする行為は、下請法違反や独占禁止法上の問題になる可能性があります*1。個人事業主側がインボイス制度への登録をしないと取引先の負担が大きくなる可能性はあるものの、トラブルを防ぐために事前に話し合うことが大切でしょう。

新規契約が難しくなる可能性がある

インボイス制度の登録申請をしないと、新規の取引先を見つけるのが難しくなる可能性があります。理由は上記と同じで、インボイス制度に対応していない個人事業主との取引は、企業や事業者が負担する消費税の納税額が大きくなる場合があるためです。

たとえば、求人サイトに掲載されるフリーランス向けの求人情報に「インボイス制度に対応していない場合は応募不可」のような条件がつく場合があるかもしれません。また、インボイス制度への対応が選考基準の1つになる可能性もあるでしょう。

そもそもインボイス制度とは?始まるとどうなるか

ここまでインボイス制度に対応しない場合に起こり得るケースについて紹介してきましたが、そもそもインボイス制度とはどのような仕組みなのでしょうか?ここからは、インボイス制度の内容や個人事業主への影響について説明します。

まず、インボイスの定義は以下の通りです。

適格請求書(インボイス)とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。具体的には、現行の「区分記載請求書」に「登録番号」、「適用税率」及び「消費税額等」の記載が追加された書類やデータをいいます*2

インボイス制度については、以下のように定義されています。

インボイス制度とは、
<売手側>
 売手である登録事業者は、買手である取引相手(消費税課税事業者)から求められたときは、インボイスを交付しなければなりません(また、交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります)。
<買手側>
 買手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイス(※)の保存等が必要となります。
(※)買手は、自らが作成した仕入明細書等のうち、一定の事項(インボイスに記載が必要な事項)が記載され取引相手の確認を受けたものを保存することで、仕入税額控除の適用を受けることもできます*2

要するに、インボイス制度では、消費税の課税事業者である買手側が仕入税額控除の適用を受けるためには売手側がインボイスの交付ができる事業者である必要があります。仕入税額控除の詳しい仕組みなどについては、フリーランスや個人事業主の方向けの以下の記事で解説しています。あわせてお読みください。

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さて、インボイス制度では、契約内容や手取り額の変更を求められたり請求書の様式を変更する必要があったりなど、個人事業主にさまざまな影響が出ると考えられます。ここからは、消費税の課税事業者・免税事業者それぞれに与える影響について説明します。

課税事業者への影響

まず、課税事業者への影響は以下が考えられます。

  • 適格請求書発行事業者の登録申請をする必要がある。
  • 請求書の様式の変更が求められる
  • 仕入れ先がある場合、インボイス登録事業者か否かを確認する必要がある

課税事業者は、インボイス制度において適格請求書発行事業者の登録申請が必要になります。適格請求書発行事業者とは、インボイスを交付できる事業者のことです。登録の方法は後述するので、チェックしてみてください。また、請求書の様式を従来のものからインボイス仕様へと変更する必要もあります。詳細は適格請求書発行事業者の登録申請方法と併せて後ほど解説します。

加えて仕入れ先がある個人事業主は、相手がインボイス登録事業者か否かを確認しておくことが大切です。もし仕入れ先がインボイス登録事業者でなければインボイスの交付はできないため、自身が納付する消費税額は大きくなります。

免税事業者への影響

続いて、免税事業者への影響は以下が考えられます。

  • 適格請求書発行事業者の登録申請を求められる可能性がある。
  • 契約内容の変更や報酬の減額などを提示される可能性がある
  • 新規契約のハードルが高くなる可能性がある

免税事業者は、取引先から適格請求書発行事業者の登録申請を要求される可能性があります。理由は、適格請求書発行事業者が発行したインボイスを保存することにより仕入税額控除の適用を受けることで、納付する消費税額を抑えられるようにするためです。

もし免税事業者でいる場合は、取引先から契約内容の変更や報酬の減額などを交渉される可能性があるでしょう。たとえば、「発注量を減らしたい」「これまでは税別だった報酬額を、税込に変更したい」などを要求されるかもしれません。

加えて、新規契約が難しくなる可能性もあるといえます。免税事業者は対象外の案件が増えたり、インボイスの交付不可が理由で発注を見送られたりするケースが考えられるでしょう。

インボイス制度の登録をするかどうかの判断基準

インボイス制度への対応を迷っている個人事業主は少なくないでしょう。そこで、インボイス発行事業者に登録するか否かの判断基準の例を紹介します。登録する・登録しないそれぞれのメリットとデメリットを説明するので、参考にしてみてください。

登録するメリット・デメリット

まず、インボイス制度に登録するメリットは以下の通りです。

  • 取引を継続してもらえる可能性が高くなる。
  • 契約内容や報酬額を維持しやすくなる。
  • 新規で顧客を開拓する際にアプローチしやすくなる。

インボイス制度に登録すると、売上の相手先は仕入税額控除の適用を受けられるため、取引を継続してもらえる可能性は高くなります。また、インボイス発行事業者であることは新規契約を目指すうえでアピールポイントになるかもしれません。

一方、デメリットは以下が考えられます。

  • 消費税を納税する必要がある。
  • 確定申告や請求書の様式変更など、手間が増える。

インボイス制度に登録すると消費税の課税事業者になるので、基準期間や特定期間の売上高が1,000万円以下でも消費税を納税する必要があります。また請求書をインボイス仕様に変更することも求められるため、事務的な作業が増えて手間がかかる可能性があるでしょう。

登録しないメリット・デメリット

続いて、インボイス制度に登録しない場合についてです。まず、メリットは以下の通りです。

  • 消費税を納税しなくてよい。
  • 確定申告や請求書の様式変更などの負担がかからない。

インボイス制度への登録をしなければ免税事業者のままでいられるため、消費税の納税をする必要はありません。消費税の確定申告は不要なので、事務的な負担を抑えられるでしょう。また、従来の請求書を使えるのもメリットの1つです。

一方、デメリットは以下があげられます。

  • 契約内容の見直しや報酬の減額などを要求される可能性がある。
  • 新規契約の獲得が難しくなる可能性がある。

インボイス登録しないままでいるとインボイスを交付できないため、取引先は仕入税額控除ができず納付する消費税の負担が大きくなってしまいます。そのため、取引を縮小するために契約内容の変更を提示されたり、あらかじめ消費税分を差し引いた報酬に減額されたりする可能性があるといえるでしょう。また、新規の顧客開拓が難しくなることも考えられます。

ただし、スキルが高い人や業務に関する知識とノウハウが豊富な人など取引先にとって替えの効かない人材と捉えられていれば、インボイス制度に登録しなくても契約内容の見直しや報酬の減額を打診される可能性は低くなるかもしれません。

インボイス制度の登録には何日かかる?

インボイス登録から通知が届くまでには、目安としてe-Tax提出では約1か月、書面提出では約1か月半かかるといわれています。インボイス登録申請が一時的に集中する時期などは通知が届くまでの期間が長引く場合もあります。そのため、1か月~1か月半という期間はあくまでも目安として把握しておきましょう。

インボイス制度の登録は、登録希望日を記載して申請が可能です*4。ただし、登録希望日は登録申請の提出日から15日以降である必要があります*4

インボイス制度へ対応する手順

ここからは、インボイス制度に対応する手順を解説します。大まかな流れは以下の通りです。

  1. 自身が免税事業者か否かを確認する
  2. 取引先が課税事業者かどうかを確認する
  3. 税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する
  4. 登録通知書を受け取る
  5. 請求書をインボイス仕様に変更する

各ステップを以下で詳しく説明します。

1. 自分が免税事業者に当てはまるか確認する

まず、自分が免税事業者か否かを確認しましょう。先述の通り、基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円以下の個人事業主は基本的に免税事業者に該当します。インボイス制度に登録すると課税事業者になるため、基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円以下でも消費税の納税が必要になる点は押さえておいてください。

2. 自分がインボイス登録する必要があるかを検討する

次に自分がインボイス登録する必要があるかを検討します。検討するポイントとしては以下のとおりです。

  • 売上相手先からインボイス登録の要請があるか
  • 特定の売上相手先がない場合には今後売上を増やしていくためにインボイス登録をした方が有利か

また、仕入れ先がある場合は同様に課税事業者か否かを確認しておきましょう。もし自身がインボイス制度に登録する場合、仕入れ先が免税事業者だとインボイスを交付してもらえず、消費税を納税する際に仕入税額控除が適用されません。つまり、自身が負担する消費税額が大きくなってしまうといえます。

3. 税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する

インボイス制度に登録するには、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を納税地を所轄する税務署に提出します*4。郵送で提出する場合は必要事項を記入し、各国税局のインボイス登録センターに郵送しましょう。なお、e-Taxを使えばパソコンやスマートフォンなどで申請が可能です*4。e-Taxなら登録通知をデータで受け取れるため、紛失などのリスクを軽減できるでしょう*4

4. 登録番号の通知を受ける

税務署での審査が完了して適格請求書発行事業者として登録されると、登録通知書が送付されます。登録番号や公表情報などが記載されている*4ため、大切に保管しておきましょう。もしe-Taxで申請した場合は、登録通知をデータで受け取れます。事前にe-Taxにメールアドレスを登録しておくと、登録通知データが格納されたときにメールで知らせてもらえます*5

5.請求書の様式をインボイスに対応させる

適格請求書発行事業者の登録が完了したら、請求書の様式をインボイスに対応させましょう。具体的には、以下の6つを請求書に含める必要があります*6

  • インボイス発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
  • 取引年月日
  • 取引内容
  • 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額等
  • 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

取引先からインボイスを求められた場合は、上記を記載したインボイスを送付するようにしてください。なお、適格請求書発行事業者の登録で課税事業者になったあと、再び免税事業者に戻ることは可能です。「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出すれば、翌課税期間の初日から免税事業者になります(翌課税期間の初日から起算して15日前の日までに届出書を提出する必要があります)*7

ただし、2023年10月1日を含む課税期間を過ぎてから登録を受ける場合、登録を受けた日から2年が経過する日の属する課税期間の末日までは、基準期間の課税売上高にかかわらず、免税事業者にはなれません*8。たとえ「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」が受理されて効力がなくなったとしても、売上高にかかわらず課税事業者として消費税の納税が必要となります*8

つまり、2023年10月1日を含む課税期間の翌課税期間以後に登録すると、2年間は免税事業者に戻れず消費税の申告が必要になります。2023年10月1日を含む課税期間の翌課税期間以後にインボイス制度に登録する際は、取消し申請をしても2年間は消費税を納付する必要がある点を考慮してください。

インボイス制度の登録申請をしない場合の対応

インボイス制度に登録しない個人事業主の方は、以下のような対応をしておくとよいでしょう。

  • インボイス登録をしないままでも問題ないか取引先に確認する
  • スキルアップを目指す

まず、インボイス制度に登録しなくても問題ないかを取引先に確認することが大切です。インボイス登録をしないままでも契約内容の見直しや報酬の減額などはないか把握しておきましょう。

またスキルアップも欠かせません。「スキルが高くてほかのフリーランスと差別化ができている」「幅広いスキルを身につけており、替えが効かない」のように個人事業主としての市場価値が高いと、インボイス制度に登録していなくても取引先から契約や報酬額の見直しを交渉される可能性は低いと考えられます。

インボイス制度の登録をやらないとどうなるか把握し、適切な準備をしよう

インボイス制度に登録しないと、取引先から契約内容や報酬額などの見直しを交渉されたり、新規契約が難しくなったりする可能性があります。まずはインボイス制度への登録が必要か否かを取引先に確認し、本記事を参考にしながら自分がやるべきことを明確にしましょう。自分では判断が難しく、不安に感じる方は税理士などの専門家に相談してみることもおすすめです。

インボイス制度への登録をしない場合は、スキルアップを目指すことも一つの対策です。専門知識を深めたり保有スキルをかけ合わせたりしてほかの個人事業主と差別化ができれば、取引先から必要とされる人材になれる可能性が高まると考えられるでしょう。

なお、スキルアップの方法が分からない方は、女性向けキャリアスクール「SHElikes(シーライクス)」をチェックしてみてください。ライティングや動画編集、マーケティング、Webデザインなど全40以上の職種スキルを学べる環境が整っており、スキルのかけ合わせを目指せるでしょう。気になる方はぜひ無料体験レッスンへ参加してみてはいかがでしょうか。

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※引用・出典
*1:国土交通省「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え⽅」より
*2:国税庁「インボイス制度の概要」より
*3:国税庁「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き」2適格請求書発行事業者の登録制度より
*4:国税庁「申請手続」より
*5:国税庁「登録申請手続のe-Taxに関するよくある質問」より
*6:国税庁「消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が開始されます」3 インボイス発行事業者の義務等(売手側の留意点)より
*7:国税庁「Ⅱ適格請求書発行事業者の登録制度」(登録の取りやめ)より
*8:国税庁「消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が開始されます」6 免税事業者の登録手続より

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。