BPRとは、「Business Process Re-engineering(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)」の頭文字を取った言葉です。1993年にアメリカで出版されたリエンジニアリング革命という本の中で誕生した言葉で、90年代から日本企業でも導入されてきました。
この記事では、現在もあらためて注目を集めているBPRについて、BPRとはそもそも何か、BPRを推進するメリットやデメリット、実際の導入の進め方、成功事例などを解説します。
BPR(ビジネスプロセス・エンジニアリング)とは
BPR(ビジネスプロセス・エンジニアリング)とは、現在の業務フローや組織内の構造、使用している情報システムを見直して再構築し、業務改革することを指します。
BPRの取り組みが必要とされる背景
BPRの取り組みが必要とされる背景としては、労働人口の減少や働き方改革の促進の影響が考えられます。少子高齢化が進み労働人口が徐々に減少していくなかで、システムや組織の再構築は急務といえるでしょう。
加えて、グローバル化や多様化が進む昨今において、ビジネスの競争も激化していくことが想定されています。そこで、BPRのような抜本的な組織改革に着目し、実践する企業が増加しているのです。
BPRでの見直しの対象としては、業務フローや情報システム、組織、職務、管理機構などが挙げられます。
業務フローを見直すことでそれまで存在していた無駄を省くことができ、業務効率化も目指すことができるでしょう。無駄を省くことによって生産性の向上が見込まれ、人件費や材料費などのコスト削減が可能となります。
また業務上の無駄を省くことは、従業員にかかる負担を軽減することにもつながります。従業員満足度が向上することで、モチベーションの維持への期待が高まる可能性があります。
このため希少な労働人口を効率よく活用したいと考えたときに、BPRに取り組むことは、非常に有効な手段であると考えられます。
BPRと業務改善の違い
BPR(業務改革)と似た言葉として、「業務改善」が思い浮かんだ方もいるのではないでしょうか。BPRと業務改善の違いとしては、スケールの大きさが考えられます。
具体的には、BPRはすべての部分を最適化し、プロセスそのものを根本から見直すものであるのに対し、業務改善はプロセスを残したまま無理や無駄を取り除く目的で部分的に見直します。業務改善は一部署のみの小さな規模で変化を生み改善させていくことを目的としているため、あまり大きな変化は見込めないといえるでしょう。ですが、BPRは業務全体に対し、従来の方針なども含む全体の抜本的な変化が期待できます。
とはいえ業務改善にもメリットがあり、基本的に現場単位での改善になるため、情報の共有も容易にしやすく専門的な知識なしでも改善を進めていくことが可能であるといえるでしょう。
対してBPRは全体の改革をおこなうので、部門間での連携や情報の伝達も必要とされ、高度で専門的な知識が求められる可能性があります。外部の専門家の活用も検討する必要があるでしょう。
つまり、BPRは全体的なプロセスに対し改革を起こすことによって効率化や生産性の向上を図ることを目的としており、業務改善はBPRの改革を構成する一部分であるということができます。
BPRとDXの違い
DX(Digital Transformation デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を用いることで業務フローなどの改善のみならず、古いシステムからの脱却を実現することを意味します。
BPRもDXも業務改善を目的としている点は共通しているといえますが、その手法が大きく異なります。
DXで目指すのは単なる改善ではなく、デジタル技術による社会や組織・ビジネスの仕組みそのものの変革です。BPRがプロセスそのものを根本から見直し最適化しようとしているのに対し、DXはデジタル技術によって大きな変革をもたらす点で相違があるということができます。
2つの違いを目的別にみてみると、DXはAI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を用いて、「ビジネスモデル」を変革することを目指しています。対するBPRは、これまで構築したビジネスプロセスを見直して無駄を省くことで業務を改善することを目的とします。業務の改革につなげるという意味では共通していますが、その手法と目的に違いがあるといえるでしょう。
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BPRを推進するメリット・デメリット
それでは、BPRを推進するメリットとデメリットをみていきましょう。
BPRのメリット
BPRのメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
- 業務フローの把握、企業全体での最適化
- 業務の効率化、スピード感のある意思決定
- 従業員のモチベーションアップ、顧客満足度の向上
BPRに取り組む過程で、業務プロセスの全体的な可視化がおこなわれます。
BPRに取り組むことがなければ、なかなか業務の全体像を可視化・把握する機会は少ないでしょう。
全体を見渡すなかで業務フローが把握でき、企業全体での最適化がおこなわれることで、複数部門で重複してしまっている業務などを発見できることが大きなメリットです。
また、このように全社的な業務の最適化が進むことで、業務の効率化やスピーディな意思決定が可能となります。経営判断のスピード向上が期待できます。目まぐるしいスピードで変化する現代において、スピード感のある意思決定は競争力に直結するため、大きなメリットといえるでしょう。
さらにBPRに取り組む過程で従業員にヒアリングをおこなうなど、働き手1人ひとりがBPRに参加することにより、従業員のモチベーションアップにもつながります。全体が最適化されて業務がスピーディになれば、顧客のニーズに合ったサービスの提供やよりよい商品をより早く提供できるようになるでしょう。顧客への対応やサービスの質も高まり、顧客満足度の向上につながります。
BPRデメリット
BPRには、次のようなデメリットがあることも否めません。
- 労力・時間・コストが必要になる
- 従業員との間に軋轢が生じる恐れがある
BPRは企業全体が対象範囲となるため、多大な労力と時間と、新しくシステムを構築するための費用などの多くのコストがかかります。プロセスの再構築の過程で改革をやめることもできないため、BPRの実施には慎重に取り組まなければなりません。
もし実行の過程で改革を断念すると、全社的な混乱だけが残されてしまうことになるでしょう。BPRは企業全体での大規模な変化を伴うため、計画段階から一連のプロセスすべてにおいて手間とコストをしっかりと管理する必要があります。
また、BPRを実施するなかで業務プロセスを全社的に見直すと、現状の業務や組織が大きく変わる可能性が高いです。このため変化を嫌う従業員などから不満が生まれてしまい、現場と経営側との間に摩擦が起きることがあります。
この問題を回避するために、あらかじめ従業員に向けてしっかり説明をしたり、施策に現場の意見を取り入れたりすることで従業員にとっての負担を減らすことができるよう意識することが大切です。すべてを経営陣のみで決めるのではなく、計画時点から部署間の仕事量を調整したり、現場のメンバーを巻き込んだりすることで理解と賛同を得やすくなるのではないでしょうか。
BPRの進め方
ここからは、BPRの具体的な進め方を段階ごとに解説していきます。
1.現状把握・検討
まずBPRを実施する目的を明確にし、対象とする範囲を決定しなければなりません。対象や目的があいまいなまま進めてしまうと、計画が迷走してしまい不要なコストが発生してしまいます。
従業員1人ひとりの協力を得た方が作業の効率化が図れるため、全体への周知はもちろんのこと、質疑応答を含む説明会などを開催するなど、丁寧な落とし込みが
必要になるでしょう。
経営層や現場それぞれの階層から改善すべき点をヒアリングし、目標設定と対象とすべき業務範囲の設定の2点を検討します。基本的にBPRでは会社全体の業務が対象範囲となりますが、具体的かつ明確に把握して進めるために、業務範囲の設定は慎重におこないましょう。
部分的に進める方法を取る場合は、優先度の高い業務から実施することになります。
2.分析
目的や対象範囲が明確になったら、対象業務を担当している従業員に対してヒアリングを実施し、現状のビジネスプロセスの課題を洗い出して改善点を検討します。ABC分析やプロセスマッピング、ベンチマーキング、BSC(バランススコアカード)などの手法を用いるとよいでしょう。
具体的には、業務フローを明らかにすることで業務量を可視化し、不要な工程や形骸化している作業の洗い出しをおこないます。業務効率化の妨げになっている部分が発見できれば、今抱えている問題点が顕在化されるでしょう。業務フローの見直しを通じて、現在の業務に横たわる課題を明らかにし、業務の分担・役割を決定していきます。
3.再設計
分析結果をもとに業務の課題を明らかにできたら、問題点の改善に向けて戦略や方針を決めて新しい方針・戦略を立てます。その後、課題解決に最適なBPMツールの検討をおこないましょう。ツールを使うことで業務プロセスを可視化・効率化でき、より安価で迅速に実施できるようになります。
また、導入時とその後の運用にかかるコストと労力も調査し、アウトソーシングの必要性についての検討もおこないます。BPRは企業のトップや役員などが中心となって計画を進行しますが、戦略や方針の策定では全員が納得できる内容でないと、全社員の協力が難しくなってしまうでしょう。
無駄な作業や簡略化できそうな作業がないかどうか、現場の社員を交えて意見を交換しあいながら方向性を定めていくことが大切です。
戦略・方針が決まったら、具体的な変革、すなわち業務の代替手段や変更後の組織・職務などを検討していきましょう。
4.実施
ここまでで準備して来た戦略や方針をもとに、BPRの実施に移行します。多くの場合、具体的な実施は企業のトップや役員を中心に進めることになりますが、BPRの必要性や目的を経営層から従業員へ共有することが重要になります。情報共有がしっかりできていないと、現場に混乱が生じやすくなってしまうでしょう。
また計画実行中もリアルタイムで情報の共有をおこない、無理や無駄がないようプロジェクトリーダーを中心に全体の進捗状況を把握・管理をしながら実施することが大切です。大掛かりな改革になるため、実施方針通りになっているか、目的達成ができているかなどを確認しながら進めます。
BPRの実施は長期にわたるため、中間目標を設定して短期的に効果を見直すことができる体制を作っておくことが大切です。
5.評価・効果測定
変革を実行したら、導入した業務プロセスに問題はないかモニタリングして効果を測定しましょう。モニタリングでは各業務にかかっている工数・時間、ミスの発生数・発生率など、現場の担当者に対して具体的な数値を測定します。新たな課題が発生したり、効果が不十分と考えられたりした場合は、原因がどこにあるのかをつきとめて計画を修正する必要があります。
逆に期待どおりの結果が出たとしても、よりよい改善につなげるために検証は続けていくことが大切です。改善記録を残しておくことで、実施内容が成功と失敗のいずれの結果になったとしても、今後の業務改革を実施する際の貴重なデータとなります。しっかりと記録を残しておくようにしてください。
BPRの主な手法
BPRに取り組む場合、業務プロセスを改善する手法として次のようなものを検討することが有効な可能性があります。
業務仕分け
BPRを実施するにあたって最初に行うべき作業は、業務の洗い出しと現状の可視化です。
具体的には、業務の流れや部門間の連携などを図式化して分類し、業務フローを可視化します。それにより、不要な業務の削減、効率化を図ることができるでしょう。業務の重要性に応じて優先順位をつけることにより、重要な業務に社内のリソースを集中させることができるようになります。
ERPシステム
ERPとは「Enterprise Resources Planning(エンタープライズ・リソース・プランニング)」の頭文字をとった略称で、企業経営の基本となる人的・物的・金銭的リソースといった経営資源を効率的に配分して有効活用するための考え方です。統合基幹業務システムとも呼ばれています。
ERPシステムを導入することによって部署間でバラバラだったシステムやデータの一元管理が可能になり、BPRの推進に役立てることができるでしょう。
シックスシグマ
シックスシグマとは統計学に基づいた品質管理手法で、品質管理のためのフレームワークです。業務の各プロセスで発生してしまうサービスや商品の品質のばらつきを分析し、品質改善を目指します。主に製造部門、営業部門、サービス部門でのBPRに活用されます。
シェアードサービス
シェアードサービスは、企業改革を目的とした手段の1つです。複数の事業部やグループ企業で構成された組織が間接部門の業務を1か所に集約させることで、効率向上やコスト削減を図ることができます。
間接業務を集約することで各社の業務削減や人材配置・データ活用の効率化が実現でき、コーポレートガバナンス強化へとつながります。
BPO
BPOとは、「Business Process Outsourcing(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」の頭文字をとった言葉で、企業の業務プロセスの一部を一括で外部の専門家に委託することを指します。
一般的なアウトソーシングと違う点は、業務プロセスの一部分ではなく、1つの業務プロセス全体を丸ごと一括で委託することと、それによって長期的・継続的な委託となるケースが多いことです。
BPRの成功事例
ここからは、BPRの成功事例を紹介します。実際の事例を確認することで、成功に必要なことを認識しておくことが大切です。
日立システムズ
日立システムズと東海村は、業務の可視化やBPRによる業務量削減効果を測る検証とその実践を通じて、BPR手法の構築に取り組みました。
この取組みにおいて、全29課を対象に4,339業務の業務内容と業務量が可視化され、総労働時間の1.21%にあたる12,680時間相当の業務量削減案が創出されました。
出典:東海村と日立システムズによるBPR(業務改革)共同研究の結果について ー全業務可視化から業務量削減の実践による自治体BPR手法を構築ー
株式会社ジャムコ
株式会社ジャムコでは調査・分析からスタートし、改善可能な業務領域の見極めたうえで業務改善、BPRを経て、設計対応者の目線による作業効率向上のためのプロセスの見直しやDB再構築などをおこないました。
対応業務としては、次のようなものがあります。
- あらかじめ一致率の高い設計済のデータから、不一致部の部品を削除したコンパートデザインDB開発について作業工数を21%削減
- 重複業務緩和に向けてファイナル検索ツールを構築し、作業工数を38.5%削減
- 作業自動化に向けてモデルプロパティシステムを開発し、作業工数を99.8%削減
出典:トランスコスモス、設計業務領域標準化でコスト最適化を促進
ハナマルキ株式会社
ハナマルキ株式会社の人事総務部は、営業・製造関係以外のすべての総務や庶務を2名だけで実施していました。このため負担が非常に大きな課題を抱えていましたが、人事給与BPOサービスの導入によって業務全体の負荷が5割ほど削減されました。
ほかのシステムとの連携がとれないことがありましたが、人事給与BPOサービスの導入によってシステム間の連携が整理されました。
出典:ProActive for SaaS 人事・給与」を活用した人事・給与業務のアウトソーシングにより、通常業務を5割削減、ペーパーレス化を推進
BPRは従業員や顧客の満足度向上にもつながる!
BPRは会社全体での改革をおこなうため規模が大きく、その作業にかかる時間や労働コストなどの手間や期間は非常に大きなものになります。ですがBPRの実施により、生産性向上や業務の最適化が顧客と従業員の満足度向上にまでつながるというメリットがあります。
ERPシステムやBPMツール、BPOなどを導入しながら、それぞれの会社の業務に適したBPRを実施しましょう。ぜひこの記事を参考に、BPRに取り組んでみてくださいね。
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