インストラクショナルデザインとは?理論や実践する目的を解説!

インストラクショナルデザインとは?理論や実践する目的を解説!

インストラクショナルデザイン(Instructional Design)とは、最適な学習効果をあげるための教育方法のこと。日本語では「教育設計」と訳されます。一般的に、企業や教育現場で使用されることが多いです。

本記事では、インストラクショナルデザインの意味や企業研修に用いられる背景、インストラクショナルデザインの理論について説明します。企業の研修担当者や教育現場にいる皆さんの参考になれば幸いです。

インストラクショナルデザインとは

インストラクショナルデザインとは、学習やトレーニングの効果を最大化するためのプロセスのことで、企業研修や教育現場で用いられます。日本語では「教育設計」と訳され、一般的に教育の効果の向上を目的とすることがほとんどです。

あらゆる教育理論に基づいて学習者のニーズや目標を考慮し、教材やプログラムの設計を行います。教育設計に含まれるのは学習コンテンツの構造化、学習活動の設計、評価方法の策定などさまざまです。

インストラクショナルデザインは教育・研修の質を向上させ、学習成果を高めるために欠かせない手法であり、オンライン教育や企業研修、eラーニングなど、さまざまな分野で活用されています。

インストラクショナルデザインが企業研修に用いられる背景

インストラクショナルデザインが企業研修に用いられるようになった背景には、2000年ごろのeラーニングの普及が関係しています。

eラーニングの広がりとともに、対面学習からスマホやタブレットを用いたオンラインの学習形態へと移行する過程で、研修講師の感覚による教育手法が通じなくなっていきました。そこで注目されたのが、「インストラクショナルデザインの理論」です。

インストラクショナルデザインでは、従業員のスキルや知識を効果的に向上させるために、研修内容を体系的に設計します。企業のニーズに応じたカスタマイズが可能で、特定の業務に必要なスキルを重点的に学べる点も特徴です。

さらに、学習成果の評価基準を明確に設定できるため、研修の効果を測定し、必要に応じて内容を最適化できます。インストラクショナルデザインの導入により、属人的な教育手法の排除、および学習効果の向上が期待できるようになったといえるでしょう。

インストラクショナルデザインの目的

インストラクショナルデザインの目的は、学習者に効率的に知識やスキルを習得させることです。教育内容を科学的かつ体系的に設計し、学習プロセス全体を最適化することで、学習者の習熟度を高めて知識の定着を促します。

また、インストラクショナルデザインはPDCAサイクルのように、システム的アプローチが可能です。そのため、学習計画から実行場面において体系的に教育の質を向上させ、研修全体の効率を高めることも目的の一つといえます。

インストラクショナルデザインの理論

続いて、インストラクショナルデザインの理論を説明していきます。

それぞれの理論について、詳しく見ていきましょう。

ADDIEモデル

ADDIE(アディー)モデルとは、研修・教育の設計・開発などをする際に使用されるフレームワークです。分析(Analysis)、設計(Design)、開発(Development)、実施(Implementation)、評価(Evaluation)の5つのフェーズの頭文字を取って名付けられました。

  • 分析(Analysis): 学習者のニーズや目標、現在のスキルレベルを分析し、研修や教育の目的を明確にします。
  • 設計(Design): 分析結果に基づいて学習目標や教材の構成、評価方法などを詳細に設計します。
  • 開発(Development): 設計段階で決定した内容を基に、教材や学習活動を実際に作成します。
  • 実施(Implementation): 開発された教材を使用して、教育や研修を行います。
  • 評価(Evaluation): 研修効果を評価し、必要に応じて改善を行います。評価は研修の質を高めるための重要なプロセスです。

ADDIEモデルは、教育プログラムの効果的な設計と継続的な改善をサポートするために広く使われています。

ID第一原理

ID第一原理(First Principles of Instruction)とは、教育心理学者であるM.・デイビッド・メリルが提唱した効果的な学習環境を実現するための基本理論です。この理論は、以下の5つの要素で構成されています。

  • 課題中心(Problem-Centered): 実際の社会問題を取り上げることで学習が促進されます。研修対象者が魅力に感じるような課題に焦点を当てます。
  • 既存知識の活性化(Activation):研修対象者が既に保有している関連知識や経験を活性化させ、新しい情報の理解を促進します。
  • 新知識の例示(Demonstration): デモンストレーションとして学習効果の例を示し、学習アイデアやコンセプトなどを複数の方法で示します。
  • 応用(Application): 学習者は、新たに習得した知識やスキルを実際に使って練習し、応用する機会を得ます。フィードバックを通じて理解を深め、スキルを定着させます。
  • 統合(Integration): 学んだ内容をシェアしたり、実演したりしながら学習を促進します。

このID第一原理は、学習者一人ひとりが他者との関わり合いを通して知識を構築していくため、熟達度の高い学習者に対して用いると良いといわれています。

ガニェの9教授事象

「9教授事象(Nine Events of Instruction)」とは、教育心理学者ロバート・ガニェが提唱した効果的な学習支援のための9つのステップです。指導設計の基本的な枠組みを提供し、学習者が知識を効果的に習得・応用できるようになることを目的としています。

  1. 学習者の注意を引く(Gaining Attention)
  2. 学習目標を提示する(Informing Learners of Objectives)
  3. 前提条件を思い出させる(Stimulating Recall of Prior Learning)
  4. 新しい内容を提示する(Presenting the Content)
  5. 学習の指針を伝える(Providing Learning Guidance)
  6. 練習機会を与える(Eliciting Performance (Practice))
  7. フィードバックを与える(Providing Feedback)
  8. 学習の成果を評価する(Assessing Performance)
  9. 保持と転移を高める(Enhancing Retention and Transfer)

ガニェの9教授事象は、教育の場で効果的な指導を行うための基本手法として広く採用されています。このステップを踏めば、学習者が身につけた知識を実際の場面で応用できるようになるでしょう。

ARCSモデル

ARCS(アークス)モデルは、学習者のモチベーションを高め、学習効果を最大化するためのフレームワークです。アメリカの教育心理学者ジョン・ケラーによって開発されたこのモデルは、以下4つの要素で構成されています。

  • Attention(注意・関心)
  • Relevant(関連性)
  • Confidence(自信)
  • Satisfaction(満足)

まず「面白そうだ」という学習者の興味を引き出すのが注意・関心の側面で、学習課題の把握をしたり、学習に意義があると認識したりするのが次の関連性の側面です。そして自信の側面では、学び始めに成功体験を重ねて「やればできる」と自信をつけます。最後に、学習を振り返り満足感を得るというステップです。

TOTEモデル

TOTE(トート)モデルは、問題解決や目標達成のプロセスを説明するためのモデルで、テスト(Test)、操作(Operate)、テスト(Test)、出口・退出(Exit)の4ステップの頭文字を取ったものです。TOTEモデルの各ステップは次のように説明されます。

  1. TEST(テスト): 現状と目標を比較し、目標に対する達成度を評価します。
  2. Operate(操作): 目標に近づくために、現状と目標の差異を埋めていきます。
  3. TEST(テスト): オペレーションの後、再び現状を評価して目標達成にどれだけ近づいたかを確認します。
  4. Exit(出口・退出): 目標が達成された場合、このプロセスを終了します。目標が達成されるまで、このモデルを繰り返し行います。

このモデルは、アメリカの心理学者ジョージ・ミラー、ユージン・ギャランター、カール・プラブラムの3人が1960年代に提唱したものです。認知心理学の文脈でよく用いられます。

インストラクショナルデザインについて学ぶ方法

ここでは、インストラクショナルデザインについて学ぶ方法をご紹介します。主な学習方法は以下の2つです。

おすすめのセミナー・書籍もそれぞれ紹介するので、ぜひ参考にしてください。

セミナー受講

トレンドのインストラクショナルデザインについて、具体的事例を踏まえながら学ぶには、セミナー受講が有効です。ここでは大手研修会社が提供するセミナー例を2つご紹介します。

株式会社インソース

研修会社大手の株式会社インソースでは、企業の人事・人材開発部門や研修担当者向けにインストラクショナルデザインの公開講座を実施中です。セミナーでは、インストラクショナルデザインの基本プロセスやガニェの9教授事象、ARCSモデルといったフレームワークを学習できます。

参加者が実際に教える内容をテーマとして、ワークショップ形式で資料を設計していくのが特徴です。研修カリキュラムを設計・開発・運営する方、社内研修用の教材を開発する方はぜひ参加してみてください。

※参考:株式会社インソース「魅力ある研修や教材作りのノウハウ ~インストラクショナルデザインを使って効果的・効率的・魅力的な研修を設計する~」より 

JMAマネジメントスクール

JMAマネジメントスクールでは、企業の人材育成および研修企画の担当者向けにインストラクショナルデザインの基礎セミナーを提供中です。3日間かけて、インストラクショナルシステムデザインの考え方に沿いながら、効果的な研修設計へのアクションを整理していきます。

参加者特典として、即実践に活かせるニーズ分析チェックリスト、ニーズ分析質問票といった、独自ツールも提供しているのも魅力でしょう。研修設計と効果を明確にするのに役立つインストラクショナルデザインの基本を学びたい方におすすめの講座といえます。

※参考:JMAマネジメントスクール「インストラクショナルデザイン基礎セミナー」より 

書籍

「自分のペースでじっくり学びたい」という方は、書籍の活用もおすすめです。ここでは、インストラクショナルデザインの基礎を学べる書籍を2冊ご紹介します。

インストラクショナルデザイン入門: マルチメディアにおける教育設計 (情報デザインシリーズ)

「インストラクショナルデザイン入門:マルチメディアにおける教育設計」は、インストラクショナル・デザインの基本と会社経営に貢献する教育のあり方を調査・分析し、実践的なプロセスをまとめたものです。

ITとマルチメディアのテクノロジーを応用し、eラーニングの活用を前提として執筆されています。きわめて実践的な内容なので、「学んだ内容を即現場で使いたい!」という人はぜひ手に取ってみてください。

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インストラクショナルデザイン 成果から逆算する“評価中心”の研修設計

「インストラクショナルデザイン 成果から逆算する“評価中心”の研修設計」は、企業内研修に焦点を当てて、戦略的に人材教育を行う理論と実践法をまとめた書籍です。著者は人材育成・教育関連企業で研修・事業開発責任者を務めたのち、教育設計のコンサルティング会社を運営しています。

インストラクショナルデザインの基本概念と実践法を理解できるだけでなく、複数の企業事例によって効果が可視化されているのが特徴です。「理論だけでなく実践方法も知りたい」という人は、ぜひ一読してみてください。

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インストラクショナルデザインを活用した企業事例

最後に、インストラクショナルデザインを活用した企業事例をご紹介します。キヤノンでは、部門担当者が単独で研修教材を作成したことにより、学習時間が2時間にもおよぶボリュームの大きな教材となったそうです。結果として、肝心な知識習得が難しい内容となっていたといいます。

そこで「伝えるべきことを明確にする」「内容をできるだけ面白く表現する」といった人材開発センターの助言を受けながらインストラクショナルデザインに取り組んだところ、無事にコンテンツを実装できました。その後もインストラクショナルデザインを取り入れたeラーニングの実装を進め、導入・推進のための体制づくりを強化しています。

参考:BIPROGY株式会社「企業内教育におけるインストラクショナルデザインの適用と実践」より 

企業研修にインストラクショナルデザインを取り入れてみよう

インストラクショナルデザインは、企業内研修などの人材育成・人材開発において学習効果を最大化するプロセスです。インストラクショナルデザインのフレームワークや理論をうまく活用すれば、従業員のパフォーマンスを引き出すことができるでしょう。

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ライター Satsuki Yokouchi
採用コンサルタント/HR専門の編集者・ライター/社労士アシスタントとして活動する複業フリーランス。パーソルキャリアで求人広告営業、人材系スタートアップにて子育て世代や外国籍向け人材事業を経験。生命保険営業やカフェ店長、Webディレクターなど、異業種の経験も豊富に持つ。
エディター 木村 彩華
0歳2歳のママ|結婚式をきっかけに防衛医大を中退後、SHElikesを受講してフリーライターに|現在は食や暮らし,美容,ウエディング,キャリア系メディア等で執筆・編集・ディレクションなど幅広く担当|Web広告代理店「CyberACE」では広報も務める|ラブグラフ専属カメラマン|2023年3月に関東から兵庫県明石市に移住

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