毎年期末になると確定申告の季節がやってきます。確定申告には青色申告と白色申告があり、それぞれ提出する申告書類が異なります。会社員にはあまり必要のない確定申告ですが、個人事業主とフリーランスには大切な作業です。
では、どんな人がどちらの確定申告を行わなければならないのでしょうか。この記事ではそれぞれの確定申告の違いやメリット・デメリットを詳しく解説します。
青色申告と白色申告の違い一覧
青色申告と白色申告の違いを図にまとめると次のとおりです。
青色申告*1 | 白色申告*2 | |
---|---|---|
対象者 | 事業所得、不動産所得、山林所得があり、青色申告の承認をされた人 | 青色申告の承認を受けていない人 |
事前申告の有無 | 青色申告承認申請書を事前に提出 | なし |
提出書類 | 青色申告決算書 | 収支内訳書 |
保存帳簿 | 仕訳帳、現金出納帳、総勘定元帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳などの帳簿 | 法定帳簿、任意帳簿 |
記帳方法 | ・特別控除65万円と55万円は複式簿記方式 ・特別控除10万円は単式簿記 |
単式簿記 |
控除を受ける要件 | ・特別控除65万円と55万円はあり ・特別控除10万円はなし |
なし |
以下では、青色申告と白色申告の違いについてより詳しく解説します。
青色申告と白色申告の主な違い6つ
青色申告と白色申告での主な違いについて、以下の順に解説します。
それぞれ順にみていきましょう。
対象者
青色申告は、事業所得、不動産所得、山林所得があり、青色申告承認申請書を事前に送り、承認を受けた人が対象となります。一方で、白色申告は原則、青色申告の承認を受けていない人が対象です*1。
事前申請の要否
青色申告で申告するには、事前に青色申告承認申請書を管轄の税務署に提出する必要があります*1。申告の申請期限は青色申告の対象になる年の3月15日です。
特例として、対象となる年の1月16日以降に事業をスタートさせていた場合は、開業届を出して2カ月以内であるならば3月15日を過ぎてしまっても、青色申告承認の提出が認められています*1。対して、白色申告なら事前申告は必要ありません。
提出書類
提出書類は、それぞれ次のとおりです*1、2。
- 青色申告:確定申告書、青色申告決算書
- 白色申告:確定申告書、収支内訳書
どちらの申告方法においても確定申告書の提出が求められます。また青色申告では、損益計算書と貸借対照表を記入する「青色申告決算書」、白色申告書では、売上や経費などの収入と支出をまとめた「収支内訳書」の提出が必要です*3。
保存帳簿
青色申告はつぎのように多数の帳簿保存が必要です。
- 仕訳帳
- 現金出納帳
- 総勘定元帳
- 売掛帳/買掛帳
- 経費帳
- 固定資産台帳
また、決算関係書類、現金預金取引等関係書類、請求書や見積書などのその他の書類も保存する必要があります。白色申告では収支金額、必要経費などを記載した法定帳簿と、領収書、請求書、納品書などの保存が必要です*3。
記帳方法
青色申告で55万円または65万円の控除を適用する場合は、複式簿記(お金の出入りと資産の増減を1度に確認できる記帳方法)での記帳が必要です。控除額が10万円の場合は単式簿記(簡易帳簿)での申告も可能です*1。
白色申告では、記帳は簡易的なもので構わないとされています。例えば、売上は1日の合計金額を合わせて記帳しても問題ありません。
控除を受けるための要件
青色申告は控除額によって控除を受けるための要件が違います。下記にそれぞれまとめたので、目を通してみて下さい*1。
控除額 | 条件 |
---|---|
10万円 | 以下をすべて満たす。 ①記帳(簡易的な帳簿)を基準とした申告を行う。 ②確定申告書に青色申告決算書を添付して提出する。 |
55万円 | 以下のすべてを満たす。 ①事業所得か事業規模の不動産所得がある。 ②所得計算の特例を利用していないこと。 ③原則の簿記に従って帳簿付けを行っていること。 ④青色申告決算を確定申告書に添付して申告を行う。 ⑤確定申告書に控除金額を明記し、申告を行う。 ⑥確定申告期限内に申告を行い納税を済ませる。 |
65万円 | 控除額55万円の要件を全て満たし、さらに以下①か②のどちらかを満たす。 ①申告をe-taxで行う。 ②法定申告期限までに一定の事項が記載済みの届出書を提出し、申告年の対象帳簿を電子帳簿として電子データ化し、保存または用意してあること。 |
青色申告の具体的なメリット・デメリット
簡単な白色申告ではなく、青色申告を行うことでのメリットとデメリットはいったい何でしょうか。順に紹介します。
メリット
青色申告のメリットを紹介します。
青色申告の作成と提出には手がかかり、準備も楽ではありませんが、青色申告を行おうと思えるメリットがたくさんあります。
特別控除が受けられる
青色申告を行う最大のメリットは、特別控除が受けられる点ではないでしょうか。控除額は条件により変わりますが、最大で65万円もしくは55万円、10万円の特別控除が受けられます*1。控除額も大きな額ですので、青色申告を面倒でも行おうと思う人も多いのです。
赤字の繰り越しができる
事業で赤字を出してしまっても、赤字を出してしまった年に青色申告を行うことで赤字の繰り越しができます。つまり、翌年以降に黒字になって所得が出た場合、発生所得から赤字の損失分を差し引きしてよいという制度です。これにより黒字化した年は赤字の損失分だけ節税ができます。繰越期限は最長3年間です*1。
固定資産が一括経費となる場合がある
青色申告を行うことで、30万円未満の固定資産を一括で全額経費にできます。購入した年に全額経費として申請できるので、その年の所得を減らし所得税の節税効果が期待できます*1。
親族への給与も経費にできる
事業主の家族に給料を支払った場合、事前に青色事業専従者給与に関する届出書を提出してけば、その給与は経費として扱えます。これは青色事業専従者給与という制度のおかげであり、普通は給与を支払ってもその給与を経費にすることはできません。ですが青色事業専従者給与の要件を満たすことで支払った給与を全額経費にできるのです。こうして全額経費にすることで所得税への節税対策ができるのです*1。
ただし、業務対価としての妥当性を保つことが要件となります。過度に多額の給与を設定して、所得を圧縮するような行為は認められていません。
貸倒引当金の設定が可能になる
青色申告では、「貸倒引当金」を経費に計上して、納める税金を減らすことができます。貸倒引当金とは、掛け売り(商品やサービスを先に提供し、後日代金を回収すること)の代金などが回収できないと思われる場合に、回収見込み不能額として計上しておくものです。青色申告では、貸倒引当金が年末における貸金の帳簿価額の合計額の5.5%以下の金額であれば、その金額が必要経費として認められます。
白色申告の場合、「個別評価による貸倒引当金」(取引先に支払い能力がない等で、回収できないことがほぼ間違いないケース)のみ経費にできます*2。
家事関連費(家賃や水道光熱費など)を一部経費として利用できる
自宅で作業をしている方の場合、家事関連費用を一部経費として計上できます。たとえば、自宅で業務をしているなら、業務スペースの面積や業務時間をもとに家賃や光熱費などを案分計上できます。これにより課税所得を減らすことで、所得税の支払い額も減らせる場合があります。家事関連費についても、業務実態に即して適切な割合で計上しましょう。
デメリット
青色申告には、いくつかデメリットもあります。
デメリットがあまりに大きいと考える方は、白色申告での確定申告も検討しましょう。
事前に必要書類を提出する手間がかかる
青色申告を利用するためには、事前に青色申告承認申請書を所轄の税務署に提出しなければなりません。うっかり提出を怠れば白色申告しか選択できなくなります。ただし、青色申告を利用する最初の年に一度だけ提出すればよいので、負荷はそれほど大きくないでしょう*1。
複式簿記形式による記帳はやや複雑になる
複式簿記で帳簿をつけるのが、やや複雑になる点がネックです。複式簿記とは取引の原因と結果を左右に並べて記帳していく方法で、経理や会計の専門知識が必要となります。自分で実行するのが難しい場合には、税理士に依頼して帳簿付けを代行してもらうのもひとつの方法です*1。
65万円控除を受けるには電子申告もしくは電子帳簿保存が必要になる
65 万円の控除を受けるためには、ご自宅等のパソコンにより、e-Tax で確定申告書及び青色申告決算書のデータを送信するか、電子帳簿保存を利用しなければなりません。どちらの方法も利用できない場合には、55万円までしか控除されないかたちとなります。
なお、電子帳簿保存で控除を受けるためには、帳簿の備え付け開始の3カ月前までに、電子帳簿保存に係る承認申請書を税務署に提出する必要がある点にも注意しましょう。
確定申告の手続きを効率的に進めるには?
確定申告の手続きを効率的に進めるためには、「事前に必要な知識を身につけておく」「専門家からアドバイスをもらう」の2点について確認しておきましょう。それぞれのポイントについて詳しく紹介していきます。
事前に必要な知識を身につけておく
確定申告をスムーズにただしく行うためには、基本的な帳簿付けの知識が欠かせません。さらに青色確定申告を利用する場合には、経理や会計の知識も必要となります。これらの知識は事業運営において資金や資産を適切に管理する上でも役立つものです。
事業を営んでいる方は、スムーズに確定申告を進められるように、基本的な知識を身につけておきましょう。必要に応じて簿記の資格を取得するのも一案です。企業経営や確定申告のためであれば、3級を取得しておけば事足りるでしょう。
専門家からアドバイスをもらう
確定申告について確実に正確な内容で申告するためには、税理士などの専門家に相談するのも一案です。
いくら知識があっても、税務の判断は難しく、素人が自分で100%正しく判断するのは難しい部分もあるでしょう。税務のエキスパートである税理士に相談すれば、正確な内容で申告ができ、申告漏れや不正確な申告のリスクを予防できます。
青色申告と白色申告の違いを理解して自分に合った方法で申告しよう
青色申告は手続きが煩雑ですが、税額控除がうけられるうえ、事業の財務状況や資金状況をより正確に把握できるのが特徴です。本格的な事業を営む個人事業主の方は、青色申告の実施を検討しましょう。
一方で、白色申告は簡便な方法で手間なく提出できるため、個人事業を営んでいない方や事業規模の小さい個人事業主にはおすすめです。両者の特性を理解したうえで、自分の事業規模や状況にあった申告方法を選択しましょう。
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<出典・参考>
*1:国税庁「No.2070 青色申告制度」
*2:国税庁「No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度」
*3:国税庁「確定申告書等の様式・手引き等(令和5年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分)」
*4:国税庁「記帳や帳簿等保存・青色申告」