グラフィックデザイナーが就職や転職、案件獲得の際に必要となるのが「ポートフォリオ」です。ポートフォリオは、自身の技術や実績を示すために作品をまとめたものですが、単なる「作品集」ではありません。
本記事では、グラフィックデザイナーがポートフォリオを作成する際に押さえておくべきポイントや作成手順、良いポートフォリオを作成するためのコツやNG例などについて解説します。
グラフィックデザイナーにおけるポートフォリオの重要性
グラフィックデザイナーが活躍するクリエイティブ業界では、経歴のみならず「どのような制作スキルがあるのか」、「どういったデザインが得意なのか」という具体性が重視されることが多いです。
その際、ポートフォリオという成果物を示すことで、企業の採用担当者やクライアントはデザイナーの能力を判断できます。グラフィックデザイナーにとってポートフォリオは履歴書のような役割を果たしているといえるでしょう。
とはいえ、作品の完成度や作品数ばかりがポートフォリオの評価ポイントではありません。企業・クライアントが求めている内容に合った、適切なポートフォリオを考える必要があります。
グラフィックデザイナーのためのポートフォリオ作成手順
グラフィックデザイナーのポートフォリオ作成手順をまとめた7ステップは以下の通りです。
順を追って説明していきます。
1.構成の検討
いきなり作品の選定や掲載作業を開始するのではなく、まずは全体の構成を考える必要があります。
そもそも媒体はどうするのか、紙で作成するのであれば収めるファイルはどういったものを選ぶのか、ボリュームやページ配分はどの程度に仕上げるのかなど、完成イメージを事前に決めておくことが大切です。
そのうえで、掲載する作品の選定、順番、トーン・雰囲気といった内容を定めていきます。
2.表紙・背表紙
表紙は企業担当者やクライアントがはじめに目にする箇所です。第一印象を左右する「顔」といってもいいでしょう。そのため、相手企業が求めているデザインや雰囲気にマッチし、悪目立ちせず、しかし印象に残る表紙を考える必要があります。
表紙には自分の氏名と「ポートフォリオ」のタイトルを入れる場合が多いですが、そのフォントや表記(英語か日本語か)についても、作品の世界観に合ったトーンを心がけることが大切です。
背表紙を付ける場合は、表紙のデザインと連動・統一させておくとよいでしょう。
3.目次
ポートフォリオの冒頭には目次を設定します。どのような作品が、どのような手順で収められているのか、わかりやすく示すことが大事です。
企業担当者やクライアントは、多くのポートフォリオを一度にチェックすることもあるため、内容がわかりにくいものは敬遠される恐れがあります。
4.自己紹介(プロフィール)
ポートフォリオには作品ばかりでなく、自己紹介(プロフィール)も記載します。経歴や職歴、実績、担当したポジション、使用可能なソフト、受賞歴、デザイナーとしてのモットーやこだわりなどについて、簡潔に記載しましょう。
その際、アピールしておきたい内容(デザイン以外のスキルなど)があれば、それも盛りむとよいでしょう。
5.実績・作品紹介ページ
制作実績や作品紹介ページには、作品の説明も掲載します。具体的には、以下のような内容が挙げられます。
- クライアント名
- 使用用途
- 自身が担当した範囲・担ったポジション
- ターゲット
- コンセプト
- 製作期間
- 製作時期
- 制作に対する考え方、苦労した点、制作を経て学んだこと、やりがいなど
なお、実績・作品紹介ページを作成する際は、単に過去の作品を羅列するのではなく、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
作品紹介のポイント
実績や作品紹介はグラフィックデザイナーのポートフォリオで最も重要な箇所といえますが、単に完成度の高いものを選定すればよいというわけではありません。
企業やクライアントが求めているデザインがどういったものかを精査し、掲載する作品の方向性や、順番、掲載の構図やページ数などについて、工夫を凝らす必要があります。
6.自己PR
ポートフォリオには、「自分はグラフィックデザイナーとしてこのような貢献ができます」という自己PRを掲載するページも用意します。
業務への意気込みや、ほかのメンバー・チームと協働していきたい旨などを記載します。重要なのは、相手がどのような人材を求めているかを想定し、けっして独りよがりな内容にしないことです。
7.審査形式に合わせた準備
企業やクライアントによって、ポートフォリオの審査形式は異なります。紙媒体ばかりでなく、PDFデータやWeb形式など相手が提示する条件に沿った準備を進めましょう。
グラフィックデザイナーがWebポートフォリオを用意する場合は、HTMLやCSSのコーディングスキルがなくても作成できるツールを活用するのがおすすめです。もしWebサイトを自作する場合は、作品の品質だけでなく、サイトの作りや操作性、見やすさなど、ITリテラシーに関わることにもこだわる必要があります。
グラフィックデザイナー向けポートフォリオ作成のコツ
採用担当者やクライアントに好印象を与えるポートフォリオを作成するには、以下の点を押さえておく必要があります。
ポートフォリオの精度を上げるためにも、それぞれのポイントを意識してみましょう。
見やすさを意識する
採用担当者やクライアントは、一度に複数のポートフォリオをチェックすることもあります。その際、紹介されている作品ばかりでなく、ポートフォリオ全体の「見やすさ」も評価の対象となる場合があります。
ポートフォリオが首尾一貫して一定のトーンを保っており、整然と作品が紹介されていれば、丁寧な仕事ができるという印象を相手に与えるでしょう。
得意なデザインをアピールできる構成を組む
グラフィックデザイナーのポートフォリオでは、10~20点の作品を掲載することも少なくありません。そのため得意分野やアピールしたいデザインがある場合は、それが担当者に確実に見てもらえるよう、構成を工夫することも重要です。
自身の強みを打ち出せる作品や、相手の意向に的確に応えているデザインなどは特に強調しましょう。
作業範囲の明確化
ポートフォリオが単なるデザインの羅列になってしまうと、作品のどの範囲を担当し、どのように関わったのかが伝わりません。
また、製作期間などの情報が明記されていないと、どれほどのスキルがあって、自社にどれだけ貢献してくれるかを正しく把握できないでしょう。
ポートフォリオに作品を掲載する場合は、必ずそれぞれのデザインにて担当した作業範囲を示すようにしましょう。
トンマナを揃え、アクセントも入れる
ポートフォリオを作成する場合は、企業やクライアントが求めているような「トンマナ」に従うようにしましょう。トンマナとは「トーン&マナー」の略称で、作品やコンテンツのデザインやスタイルに一貫性を持たせるルールを指します。
フォントや配色イメージなど、統一感のあるポートフォリオにすることで、見やすいだけでなく、「トンマナにも気を配れる」という仕事の丁寧さもアピールできるでしょう。
ただし強調したい項目や、単調さを避けたいような箇所は、あえて局所的に配置を変更するなど、アクセントを加えて目立たせることも効果的です。
読み手の視点を意識する
ポートフォリオは作品を通して自分のスキルや実績を伝えるためのものであり、「作品集」ではありません。そのため、読み手の視点を意識することが重要です。
企業やクライアントの業界にふさわしいトンマナを用いたり、相手が求めているであろう情報をわかりやすく掲載するなど、工夫を加えましょう。
読み手に配慮したポートフォリオは最後まで見てもらえる可能性が高く、また、ユーザー目線での仕事ができるという印象を相手へ与えられます。
ポートフォリオサイトで情報収集する
ポートフォリオサイトとは、各クリエイターが自身のポートフォリオをWeb上に作成できるサイトを指します。URLやQRコードをシェアすることで、デザインや作品を公開できることが特徴です。
ポートフォリオサイトを参照すれば、ほかのデザイナーのポートフォリオが確認でき、デザインの内容はもちろん、見せ方、伝え方、アピ―ルの仕方など、役立つ情報が手に入るでしょう。それらをチェックすることで、自身のポートフォリオの課題発見につながったり、制作の方向性が定まってきたりするはずです。
グラフィックデザイナーのポートフォリオNG例
グラフィックデザイナーがポートフォリオを作成する際に陥りがちな、好ましくない例を紹介します。
自身の実績・作品を読み手に正しく伝えるためにも、ポートフォリオ作成時はこれらの点に注意しましょう。
作品の羅列だけになっている
繰り返しになりますが、ポートフォリオはグラフィックデザイナーの「作品集」ではありません。作品を通して、デザインスキルや過去携わった制作事例について、企業やクライアントに伝えるための「プレゼン資料」のようなものです。そのため、単に過去の作品を羅列するだけでは、読み手が欲しい情報には不十分です。
作品の注力した点や、磨いてきたスキルを相手に正しく伝えるためにも、構成や文章など、読み手の視点に立ったまとめ方にしましょう。
情報量の過不足
企業担当者やクライアントが知りたいのは、応募者が掲載作品にどのように携わり、どのような意図で制作を行ったか、どういった形で自社に活かしてくれるか、という点です。
これらを示すためには、作品で携わった作業範囲や、製作期間、制作時の意図など、不足のない情報が必要です。
とはいえ過去作品を片っ端から掲載し、作品数の多さばかりをアピールするのは、情報過多となりがちです。読み手もどれが応募者が伝えたい箇所なのかが把握しきれず、かえって評価が下がってしまう恐れがあります。
一般的にグラフィックデザイナーのポートフォリオは、多くて10〜20作品、15〜25ページほどで収め、かつ相手に伝えたい情報を過不足なく盛り込むことが大切です。
自己満足の作品集
自身のスキルや得意事項をアピールしたいあまり、極端な趣向に偏りすぎているポートフォリオは、自己満足な作品集と捉えられマイナスイメージとなる恐れがあります。
企業が求めるものに最大限応えたい気持ちがあったとしても、一部のジャンルや同じテイストの作品ばかり掲載するのは、バリエーションが少ないと解釈される可能性があるので避けましょう。
デザイン業務は、創作活動ではなく、相手の求めるものを制作する仕事です。自己アピールだけでなく他者の意向を読み取り、都度対応できる柔軟性も、ポートフォリオのなかに表現できるとよいでしょう。
印象に残らない
過剰な作品数掲載や過度の自己アピールは必要ありませんが、印象に残らないポートフォリオでは他者との差別化は難しいでしょう。
印象に残らないポートフォリオは、担当者の思いに応えていないものだといえます。ポートフォリオを通じて、「自社の意向を理解してくれそう」「こちらの思いに応えてもらえそう」と感じてもらうために必要なのは、奇抜なデザインや凝った作りでなく、自社での活躍を具体的に想像させることです。
ポートフォリオ作成時は、相手の求めるものや意向について、深く考えることが大切です。
社外秘の情報を載せてしまう
ポートフォリオに掲載したい作品のなかには、他社製品にまつわるデザインや二次創作、未公開作品などが含まれる場合もあるでしょう。クライアントに許可を取っていれば良いですが、アピールしたいがあまり社外秘の情報をポートフォリオに掲載すると、トラブルになる恐れもあります。
またポートフォリオを読む企業やクライアントも、「この人は著作権や社外秘情報の扱いに対する意識が低いのでは」と受け取るかもしれません。
掲載したい作品があったとしても、ルールを遵守することが、ポートフォリオ作成時にはきわめて重要です。
グラフィックデザイナーのポートフォリオは読み手の意図を汲むことが大切
ポートフォリオは、過去作品の出来栄えを紹介する資料と捉えられがちですが、実際には企業やクライアントに自身のスキルや経験をアピールするためのものです。
そのため、凝ったつくりや作品数ばかりを気にするのではなく、相手の視点を意識したポートフォリオ作成が求められます。
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