近年、IT業界では一人で複数分野の業務をこなす「フルスタックエンジニア」が注目されています。しかし、フルスタックエンジニアとはどのような職種なのか、具体的にわからないという方もいるのではないでしょうか。
今回は、フルスタックエンジニアの概要や仕事内容、必要なスキル、ロードマップの参考例などを、わかりやすく解説します。フルスタックエンジニアについて興味がある方は、是非参考にしてみてください。
フルスタックエンジニアとは
フルスタックエンジニアとは、システム開発において複数のスキルを持ち、分野を問わずにマルチに業務をこなすITエンジニアのことを指します。
たとえば、「フロントエンド開発とバックエンド開発」「上流工程から下流工程までの一連業務」「アプリ開発とインフラ開発」のように、複数の開発工程を一人で行える人材をフルスタックエンジニアと呼びます。
フルスタックエンジニアは決まった職種を指す言葉ではなく、明確な定義もありません。また業務やスキルの組み合わせに決まりもないため、「複数の役割を担えるマルチエンジニア」を指すことが多いようです。
フルスタックエンジニアはいらない?
ネット上では、「フルスタックエンジニアはいらない」という声を見かけることもあります。そんなネガティブな意見が出る要因は、日本企業の特徴にあると言えるでしょう。
スタートアップが多い海外、主にアメリカでは少数精鋭で効率的にシステム開発を行うことが多いです。一方、日本では各専門分野に特化したスペシャリストを集めてシステム開発を行う傾向にありました。
そのため、日本では「一つの分野に精通したエンジニアに比べて技術や知識が劣ってしまう」というイメージがつきやすいのです。
しかし、広い視野を持ちプロジェクトごとにマルチに対応できるフルスタックエンジニアは、日本企業からの需要も年々高まっているようです。特にスタートアップ企業では、幅広いスキルを持ったフルスタックエンジニアの活躍が期待されていると言えます。
フルスタックエンジニアの仕事内容
フルスタックエンジニアはプロジェクトによって携わる範囲が異なるため、具体的な仕事内容は決まっていません。ここでは、フルスタックエンジニアが担うことの多い仕事内容の例として、以下の4つを紹介します。
- フロントエンド開発
- バックエンド開発
- アプリ開発
- ITインフラの構築・運用・保守
それぞれの仕事内容について解説します。
フロントエンド開発
フロントエンド開発とは、WebサイトやWebアプリケーションにおいて、ユーザーの目に触れる部分を実装する仕事です。たとえば、Web上でユーザーが押すボタンや文字を入力をする場所などがフロントエンドにあたります。
フルスタックエンジニアは、デザイナーの作成したUIデザインをもとにコーディングを行います。主にHTMLやCSS、JavaScriptを使用しますが、開発速度と作業効率を考えるWeb開発現場では、フレームワークやライブラリの利用も一般的です。
バックエンド開発
フロントエンドに対し、ユーザーの目に見えないシステムの裏側を開発する仕事がバックエンド開発です。たとえば、ECサイトの受注処理、送信されてきた顧客情報の保管・管理、発送や在庫の管理など、データを適切に格納・処理・呼び出しする役割が挙げられます。
主にPHPやC++、PythonやRuby、Javaなどを使用するため、フロントエンドとは異なったプログラミングスキルが必要です。また、インフラやデータベースの知識も求められます。
フロントエンドとバックエンドは連携を求められることが多いため、どちらも請け負えるフルスタックエンジニアがいれば、効率良くシステム開発を進められるでしょう。
アプリ開発
アプリ開発には、ブラウザ上で利用するWebアプリと、スマートフォンなどの端末で利用するモバイルアプリの開発があります。WebアプリではJavaScriptやPHPを使用し、モバイルアプリではJavaやSwift、Kotlinなどを使用します。
どちらも開発するとなれば、複数のプログラミング言語を習得する必要があるため、一般的にはそれぞれ担当者が分かれているケースが多いです。双方の開発に携われるフルスタックエンジニアがいれば、効率化につながるだけでなく親和性の高いアプリケーションを開発することができるでしょう。
ITインフラの構築・運用・保守
ITインフラの構築・運用・保守は、一般的にインフラエンジニアが担当する領域です。しかし、フルスタックエンジニアがインフラ周りの業務もできれば、障害が起きた際の迅速な対応や原因究明が可能になります。
具体的な業務内容は、サーバーの設計や運用、ネットワークの構築、OSのバージョンアップやミドルウェアのバックアップ、トラブル発生時の対応などです。主流のOSであるLinuxやWindows Serverの知識や、L3スイッチやルーターなどのネットワーク機器に関する知識が求められます。
フルスタックエンジニアに必要なスキルや知識
複数の領域を担当するフルスタックエンジニアとして活躍するためには、幅広いスキルや知識が必要です。ここでは、フルスタックエンジニアに求められるスキルや知識の例として、以下の4つを紹介します。
- プログラミング言語
- クラウドサービス
- OS・ミドルウェア
- 分析力
それぞれ見ていきましょう。
プログラミング言語
フルスタックエンジニアは、開発業務においてプログラミングを担当するケースも多く、プログラミング言語に関する知識は必須です。使用するプログラミング言語は開発するシステムによって異なりますが、代表的なPythonやJavaScript、Javaなど、携わる領域で扱うプログラミング言語スキルが求められます。
上流工程やインフラ領域の業務では、プログラミングを行わないケースもあります。しかし、フルスタックエンジニアとしてさまざまな開発領域で活躍を目指すなら、複数のプログラミング言語の知識やスキルは習得しておきましょう。
クラウドサービス
コストの削減や業務効率化につながることから、近年クラウドサービスを導入する企業が増えています。そのため、フルスタックエンジニアにもクラウドサービスに関する知識やスキルが求められます。
クラウドサービスの種類は「SaaS」「PaaS」「IaaS」に3分類され、企業側の形態や事業内容によって導入すべきサービスが異なります。まずはシェア率が高いAWSをはじめとする各サービスの特徴を理解し、規模や用途に応じてサービスを選択できる知識を習得していくとよいでしょう。
OS・ミドルウェア
バックエンド開発やインフラの構築・運用・保守に携わる場合、OSに関するスキルが必要です。現在主流となっているOSのWindowsやiOS、Android、Linux、もしくはプロジェクトで必要となるOSのスキルは身につけておきましょう。
また、OSとアプリケーションの中間にあるミドルウェアを使用することで、複雑な処理や高度な動作が可能になります。OSとあわせて、代表的なミドルウェアに関する知識も必要だと言えるでしょう。
分析力
フルスタックエンジニアは、システム開発において幅広い技術領域を担当するとともに開発全体に携わるケースも多いため、分析力が求められます。
たとえば、要件定義や設計といった上流工程を担当する場合、顧客ニーズを把握し課題の本質を見抜くなど、プロジェクト全体を俯瞰しながら開発に落とし込めるかを考える能力が必要です。
また、システムの運用フェーズでトラブルが発生した場合に、原因を突き止めるためにも分析力を身につけておくことが大切です。
企業がフルスタックエンジニアを求める理由
近年、日本企業でも幅広いスキルを持ったフルスタックエンジニアの需要は増加傾向にあるようです。ここでは、企業がフルスタックエンジニアを求める理由や背景として、以下の3つを紹介します。
- エンジニアに求められる役割の変化
- 人件費の削減
- 開発スピードの向上
一つずつ見ていきましょう。
エンジニアに求められる役割の多様化
企業がフルスタックエンジニアを求める理由として、時代の流れに沿ってエンジニアに求められる役割が多様化したことが挙げられます。
従来、エンジニアの役割は「システムを開発すること」に比重が置かれており、開発したシステムを納品すればひとまず役割を果たしたという状態でした。しかし、近年ではサブスクリプション型のサービス増加によるビジネスモデルの変化により、アプリケーションやサービスをリリースした後の運用・改善が重要視されるようになりました。
そのため、開発だけでなく、運用から改善まで行えるフルスタックエンジニアの需要が増しているのです。
人件費の削減
システム開発には多くの工程があり、それぞれ必要なスキルや知識も異なります。そのため、分野ごとに専門のエンジニアを雇用する必要があります。しかし、これまで各工程で確保していた人材の業務をフルスタックエンジニア一人でこなすことができれば、大幅な人件費削減につながるでしょう。
プロジェクト完了後の追加開発があった際にも、フルスタックエンジニアを雇用することで各工程ごとのエンジニアを募集する必要がなくなるため、企業にとっては貴重な存在なのです。
開発スピードの向上
プロジェクト全体に精通したフルスタックエンジニアは、複数の開発工程を一人で担当できるため、開発スピードの向上が実現できるのも重宝される理由の一つです。各領域で連携がスムーズになるだけでなく、伝達のミスも減らせるため、工数の削減も期待できるでしょう。
IT技術の進化が著しい近年では、開発スピードが重要視されています。トレンドに取り残されないためにも、企業はフルスタックエンジニアを雇用し、業務の効率化・高速化を図ろうとしているのです。
フルスタックエンジニアの年収
フルスタックエンジニアに明確な定義はなく、人によって担当する領域も異なるため、正確な年収情報はありません。
参考として、経済産業省が2017年に公表した「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果*1」における、IT人材のスキル標準レベル別の平均年収を紹介します。
- レベル3(独立して仕事ができる中堅人材レベル):約576万円
- レベル4(部下を指導できるチームリーダーレベル):約726万円
- レベル5(社内での指導者・幹部レベル):約937万円
フルスタックエンジニアは、システム開発の幅広い知識やスキルを持つオールラウンダーと捉えられるため、スキル標準レベルは少なくともレベル3以上と考えてよいでしょう。もちろん、保有しているスキルセットや経験によって年収は異なるため、あくまでも目安として参考にしてみてください。
フルスタックエンジニアになるには?ロードマップの参考例
各領域で活躍できるフルスタックエンジニアになるには、どのような方法があるのでしょうか。ロードマップの一例として以下の5つのステップを紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
- エンジニアとして経験を積む
- クラウドサービスやOSの知識・スキルを身につける
- 専門分野で実績を作る
- 上流工程を経験する
- IT業界の最新情報をキャッチアップする
1.エンジニアとして経験を積む
まずは、エンジニアとして経験を積み、システム開発の基礎知識や実践的なスキルを身につけていきます。エンジニアの経験がない場合、コーディングやテストといった下流工程の仕事から始めるのが一般的でしょう。
未経験の状態からエンジニアに就職するためには、基本的なプログラミングスキルやポートフォリオが必要な場合もあります。事前に独学やスクールを利用しながら、スキルの習得を目指しましょう。
2.クラウドサービスやOSの知識・スキルを身につける
近年ではクラウドサービスを導入する企業も多く、自社でサーバーを立てることも少なくなっています。そのため、主流となっているクラウドサービスの知識を身につけることが大切です。
また、さまざまなOSに関する知識やスキルがあれば、インフラ周りのトラブル時に対応できるエンジニアとして重宝されるでしょう。
3.専門分野で実績を作る
フルスタックエンジニアとして活躍するためには、特定の専門分野で実績を作ることも重要です。専門分野での実績もありながら、複数の領域も担当できるエンジニアになることで、「器用貧乏」というマイナスイメージを払拭することができます。
特にIoTやAIといった先端技術や、クラウドに関するスキルを持ったエンジニアは需要が高い傾向にあるため、実績を作るのにおすすめの分野です。
4.上流工程を経験する
フルスタックエンジニアは上流工程の業務にも対応する必要があるため、要件定義や設計の経験も積み、スキルを磨いていきましょう。一般的には、下流工程での経験を積んでから、上流工程へステップアップすることが多いです。
上流工程の経験を積むなかで、技術的なスキルだけでなく、コミュニケーションスキルやマネジメント能力を身につけていくことも大切です。
5.IT業界の最新情報をキャッチアップする
最後に、フルスタックエンジニアは、日々技術が進歩しているIT業界の最新情報をキャッチアップする必要があります。フルスタックエンジニアは担当領域が広いため、常にどこで求められているのかを把握することが大切です。
エンジニアとしての市場価値を高めるためにも、IT業界全体を俯瞰して、身につけるべきスキルを見極めましょう。
フルスタックエンジニアとは、需要の高いオールラウンダー
フルスタックエンジニアは、システム開発においてマルチなスキルを発揮できるため、企業からの需要も高まっています。幅広い領域の知識やスキルの習得が必要ですが、さらに専門分野を持つフルスタックエンジニアとなれば、IT業界で重宝されるオールラウンダーとして第一線での活躍が見込まれるでしょう。
フルスタックエンジニアになるには、身につけるべきスキルを理解し、徐々に経験を積んでいくことが大切です。この記事を参考に、マルチに活躍するフルスタックエンジニアを目指してみてはいかがでしょうか。
女性向けキャリアスクールSHElikes無料体験レッスンはこちら
※出典
*1:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果 p7」より