リスキリングとは、新しい分野の知識・スキルを学び直すことを指す言葉です。さまざまな企業でDX化が推進され、IT技術が発展するなかで、政府からもリスキリングを支援する動きが活発になっています。その一つとして、個人向け、企業向けにリスキリングを支援する給付金や助成金も完備されるようになりました。
この記事では、企業が従業員のリスキリングに使用できる人材開発支援助成金制度とキャリアアップ助成金制度を紹介します。コース別に対象者や対象分野が異なるため、自身が使用できる制度はないか確認してみましょう。
そもそもリスキリングとは?
経済産業省によると、リスキリングは下記のように定義されています。
新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること*1
経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
リスキリングは、個人のキャリアアップの目的と企業側が主導して従業員のスキルアップを図る二つに分類されます。自身の今後のキャリアを踏まえたうえで、どんな分野の知識、好きを身につけたいかを考えましょう。
【企業向け】従業員のリスキリングに使える厚生労働省が行っている人材開発支援助成金制度を紹介
人材開発支援助成金制度は、厚生労働省が行っているリスキリング支援制度です。7つのコースがあり、コースや企業の規模によっては経費の75%が助成される場合があり、手厚い制度となっています。
この記事では、汎用性の高い4つのコースの利用条件や対象となる訓練について紹介します。4つのコース以外にも、建設労働者向けの建設労働者認定訓練コース、建設労働者技能実習コース、障害者向けの障害者職業能力開発コースもあります。
人材開発支援助成金とは?支援目的と対象企業を解説
人材開発支援助成金は、事業主が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識やスキルを習得させるための職業訓練を実施した場合に、経費や職業訓練中の賃金の一部を助成する制度です。
労働者の職業生活設計の全期間を通じて、段階的かつ体系的に知識やスキルを磨き、能力開発を促進することを目的とした助成金です。支給対象の条件は、(1)雇用保険の適用事業所であること、(2)支給審査への協力を行うこと、(3)指定された期間内に助成金の申請をおこなうことの3つです。
また、人材開発支援助成金を使用できる労働者は、その企業の雇用保険に加入している労働者であることが条件になります。これは、本助成金が企業の永続的な発展を目指すことが支援目的となっているためです。
人材育成支援コース
人材育成支援コースでは、以下の3つの訓練を実施した際の経費や訓練期間中の賃金が一部助成されます。それぞれの訓練や対象労働者の雇用条件などによって、経費助成率や賃金助成額が異なります。詳しくは、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内*2を確認しましょう。
- 職務に関連した知識・技能を習得させるための10時間以上の人材育成訓練
- 厚生労働大臣の認定を受けた実習併用の認定実習併用職業訓練
- 有期雇用労働者を対象とした正規雇用労働者等に転換するための有期実習型訓練
職業訓練の種類 | 対象労働者 | 経費助成率 カッコ内は中小企業以外の助成額・助成率 |
賃金助成額 | OJT助成 |
---|---|---|---|---|
1.人材育成訓練 | 雇用保険被保険者(有期契約労働者等 を除く。)の場合 | 45%(30%) | 760円(380円) | – |
有期契約労働者等の場合 | 60% | |||
有期契約労働者等を正規雇用労働者等 へ転換した場合 | 70% | |||
2.認定実習併用職業訓練 | 雇用保険被保険者 | 45%(30%) | 760円(380円) | 20万円(11万円) |
3.有期実習型訓練 | 有期契約労働者等の場合 | 60% | 760円(380円) | 10万円(9万円) |
有期契約労働者等を正規雇用 (9万円) 労働者等へ転換した場合 | 70% |
教育訓練休暇等付与コース
教育訓練休暇等付与コースは、有給教育訓練制度を導入し、労働者が当該休暇を取得し、訓練を受けた場合に助成されます。休暇の程度により、以下の3種類の制度に分かれており、賃金や制度導入・実施に対する助成が受けられます。詳しくは、人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース)のご案内*3を確認しましょう。
- 3年間に5日以上の取得が可能な有給の教育訓練休暇を導入し、実際に適用した事業主に助成する教育訓練休暇制度
- 30日以上の長期教育訓練休暇の取得が可能な制度を導入し、実際に適用した事業主に助成長期教育訓練休暇制度
- 30回以上の所定労働時間の短縮および所定外労働時間の免除が可能な制度を導入し、実際に1回以上適用した事業主に助成する教育訓練短時間勤務等制度
支給対象となる制度 | 賃金助成 カッコ内は中小企業以外の助成額・助成率 |
制度導入・実施助成 |
---|---|---|
1.教育訓練休暇制度 | ー | 30万円 |
2.長期教育訓練休暇制度 | 960円(760円) | 20万円 |
3.教育訓練短時間勤務等制度 | ー | 20万円 |
人への投資促進コース
人への投資促進コースでは、デジタル人材・高度人材を育成する訓練、労働者が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)等を実施した場合に、経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。以下の6つの訓練に分かれており、それぞれ対象者や対象訓練、経費助成率、賃金助成額、OJT実施助成額が異なります。また、助成金を受けようとする事業所の雇用保険に加入していれば、正規、非正規にかかわらず助成対象の労働者になります。詳しくは、人への投資促進コースのご案内*4を確認しましょう。
訓練メニュー | 対象訓練 | 経費助成率 カッコ内は中小企業以外の助成額・助成率 |
賃金助成額 | OJT実施助成額 |
---|---|---|---|---|
高度デジタル人材訓練 | 高度デジタル訓練 (ITスキル標準(ITSS)・ DX推進スキル標準(DSSP)レベル3・4等) |
75%(60%) | 960円(480円) | ー |
成長分野等人材訓練 | 海外も含む大学院での訓練 | 75% | 960円(国内大学院の場合) | ー |
情報技術分野認定実習併用職業訓練 | IT分野関連の座学、 実習の組み合わせの訓練 |
60%(45%) | ー | 20万円(11万円) |
定額制訓練 | 「定額制訓練」 (サブスクリ プション型の研修サービス) |
60%(45%) | ー | ー |
自発的職業能力開発訓練 | 労働者の自発的な訓練費用 を事業主が負担した訓練 |
45% | 960円(760円) | ー |
長期教育訓練休暇等制度 | 長期教育訓練休暇制度 (30日以上の休暇取得) |
20万円 | ー | ー |
所定労働時間の短縮と 所定外労働時間の免除制度 |
20万円 | ー | ー |
事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースは、新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴って、雇用主が労働者に対して新たな分野で必要となる知識やスキルを習得させるための職業訓練に対して助成されるのが特徴です。2022〜2026年の期間限定の助成金になっています。詳しくは事業展開等リスキリング支援コースのご案内*5を確認しましょう。
座学やe-ラーニングで行われる10時間以上の職業訓練が対象です。訓練の内容としては、事業展開を行うにあたり必要となる専門的な知識や技能の習得をさせるための訓練、事業展開は行わないが、企業内のDX化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるのに関連する業務に必要となる専門的な知識や技能の習得をさせるための訓練が対象になります。
経費助成率は75%(中小企業以外の場合、60%)で、賃金助成は960円(中小企業以外の場合、480円)です。
【企業向け】従業員のリスキリングに使える厚生労働省が行っているキャリアアップ助成金制度を紹介
キャリアアップ助成金制度とは、非正規雇用労働者を正社員化もしくは処遇改善の取り組みを行った企業に対して、厚生労働省が一定額の助成を行う制度です。
前述した人材開発支援助成金制度と組み合わせることで、助成額が加算される仕組みになっているため、リスキリングを促進する制度の一つとなっています。
キャリアアップ助成金とは?対象者と支援目的を解説
キャリアアップ助成金制度とは、有期雇用労働者、短期間労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進することを目的とした制度です。
非正規雇用従業員の正社員化や処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して、コース別に企業規模や労働者の現状の雇用状況などに応じて、一定の額が助成される仕組みになっています。
人材開発支援助成金の「人材育成支援コース」「人への投資促進コース」「事業展開などリスキリング支援コース」に該当する職業訓練を行うことで、キャリアアップ助成金の額が加算されるコースもあります。詳しくは、キャリアアップ助成金のご案内*6を確認してください。
正社員化コース
正社員化コースは、企業の就業規則またはそれに準ずるものに規定したとおり、有期雇用者などの非正規労働者を正社員化した場合に企業に助成金が支払われる制度です。
さまざまな加算措置があり、派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用する場合や人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合などに助成額が追加される規定があります。6ヶ月ごとに申請する形をとっており、2期に渡って申請することで満額受けとれるようになっています。
本コースとは別に、障害を持つ労働者を正社員雇用した場合に対象となる障害者正社員化コース*7もあります。
企業規模 / 正社員化前雇用形態 |
有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 |
---|---|---|
中小企業 | 80万円 | 40万円 |
大企業 | 60万円 | 30万円 |
賃金規定等改定コース
賃金規定等改定コースは、非正規労働者の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用させた企業に助成金が支払われる制度です。職務の大きさを相対的に比較し、賃金が職務の大きさに応じたものになっているかを評価した上で増額改定が行われた場合は、助成額がさらに加算される仕組みになっています。
企業規模 / 賃金引き上げ率 |
3%以上5%未満 | 5%以上 |
---|---|---|
中小企業 | 5万円 | 6万5000円 |
大企業 | 3万3000円 | 4万3000円 |
賃金規定等共通化コース
賃金規定等共通化コースは、就業規則などにより、雇用するすべての有期労働者に正規雇用労働者と共通の職務などに応じた賃金規定などを新たに作成し、適用した場合に助成される制度です。企業規模により支給額は異なります。
企業規模 | 支給額 |
---|---|
中小企業 | 60万円 |
大企業 | 40万円 |
賞与・退職金制度導入コース
賞与・退職金制度導入コースは、就業規則などにより、すべての有期労働者等に関して、賞与・退職金制度を新たに儲け、支給または積立てをおこなった場合に助成します。企業規模によって異なり、賞与及び退職金制度を同時に導入した場合は、さらに助成金額が多くなっています。
企業規模 / 制度 | 賞与又は退職金制度いずれかを導入 | 賞与及び退職金制度を同時に導入 |
---|---|---|
中小企業 | 40万円 | 56万8,000円 |
大企業 | 30万円 | 42万6,000円 |
社会保険適用時処遇改善コース(令和8年3月31日まで)
社会保険適用処遇改善コースは雇用する短時間労働者に対して、社会保険の被保険者要件を満たす雇用し、その被保険者に対して賃金総額を増加させる取り組み(手当支給や賃金の増額、労働時間の延長)を行った場合、週の所定労働時間を4時間以上延長したことで、社会保険の被保険者要件を満たす被保険者となった場合に企業に対して一定額が支給される制度です。
1年目、2年目、3年目ごとに所定の金額が支払われる仕組みで、恒常的な所得の増額を支えることが目的です。1年目と2年目は労働者負担分の社会保険料相当額(報酬月額などの15%以上)の手当支給又は賃金の増額で構いませんが、3年目の取り組みは基本給の総支給額を18%以上増額するなどの措置が必要になります。
手当等支給メニュー
企業規模 | 1年目の取組 | 2年目の取組 | 3年目の取組 |
---|---|---|---|
中小企業 | 40万円 | 40万円 | 10万円 |
大企業 | 30万円 | 40万円 | 7.5万円 |
労働時間延長メニュー
企業規模 / 延長時間・賃金引き上げ率 |
4時間以上 | 3時間以上4時間未満または、5%以上引き上げ | 2時間以上3時間未満または、10%以上引き上げ | 1時間以上2時間未満または、15%以上の引き上げ |
---|---|---|---|---|
中小企業 | 30万円 | |||
大企業 | 22.5万円 |
企業がリスキリングを推進するメリット
従業員がリスキリングすることは、企業側にもメリットがあります。企業にどんなメリットがあるのかを紹介します。
従業員のモチベーションを保ち、離職率を下げる
リスキリングを通して、従業員に学びの機会を提供することで従業員のモチベーションを保つことができます。また、リスキリングを含め、それぞれの従業員の要望に合わせて待遇を改善することで、離職率を下げることができます。
従業員の強みや希望に合わせて業務に必要な知識やスキルを身につけてもらうことで、従業員から企業に対する愛着を育てることができます。企業全体の活力を高めることもできるでしょう。
さまざまな技術を自社で内製化できる
従業員のリスキリングを推進することで、それぞれが専門的な知識やスキルを身につけることができ、さまざまな技術を自社で内製化できます。外部に委託する金銭的、時間的コストを削減することができ、業務をより効率的に進めることができます。
自社内でデザインや開発、データ分析などをできれば、現状分析から改善までのスピードを上げることができ、よりクライアントのニーズにあったビジネスを実践することができます。また、データ分析やデザインなどは流行の移り変わりが速いため、従業員に基礎的な知識を身につけてもらえればそういった時代の流れにも適応することができます。
今後必要になる技術を身につけた社員を育成できる
AIをはじめ、IT技術は日々進化しています。こういった技術の発展により、ビジネス形態やクライアントへの営業方法などを変化させる必要がある場面が増えています。従業員のリスキリングを推進することにより、最新技術を身につけた従業員を育成することができます。
既存のビジネスに、最新技術をどう生かすことができるかを自社内で検討することも可能になるでしょう。例えば、データサイエンスやプログラミングを身につけた従業員を育成できれば、業務フローの簡略化、クライアントデータの分析、従業員の勤務実態の分析など、さまざまな課題解決につながります。現状の課題解決に必要な知識やスキルなどを精査したうえで、リスキリング内容を検討しましょう。
厚生労働省のリスキリング向け助成金で、リスキリングを推進しよう
本記事では、厚生労働省が提供する企業向けにリスキリングを推進する助成金を紹介しました。
従業員のリスキリングは、企業の成長においてとても重要です。従業員がリスキリングをすることは、ビジネスモデルのアップデート、最新技術を取り入れた業務の効率化だけでなく、従業員のモチベーションアップや離職率低下にもつながります。助成金の支給条件や対象者、講座内容をよく確認して、従業員の希望も踏まえてリスキリングを進めていきましょう。
企業向けの助成金が利用できない場合は、個人でのリスキリングを検討してもよいでしょう。個人で利用できる経済産業省のリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業は、さまざまなキャリアスクールが対象事業者になっており、最大で70%の還元が受けられる制度です。
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引用
*1 経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
参考
*2 人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内
*3 人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース)のご案内
*4 人材開発支援助成金(人への投資促進コース)のご案内
*5 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内
*6 キャリアアップ助成金のご案内
*7 キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)