「インボイス制度に対応すると白色申告のやり方は変わるの?」と疑問に思っている個人事業主の方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、インボイス制度は消費税に関する制度であり、所得税の申告方式である白色申告に直接的な影響はありません。ただし、免税事業者がインボイス制度を機に課税事業者になった場合は、所得税とは別に消費税の申告が必要になります。
本記事ではインボイス制度が白色申告に与える影響の有無について解説しています。インボイス制度への対応に悩んでいる方はぜひ最後までお読みください。
インボイス制度に関連する基礎知識
インボイス制度とは、インボイス(適格請求書)の発行・保存により、消費税の税率や税額を正しく計算する方式のことです。また、商品・サービスの買い手が仕入れ額控除を適用する際にも、インボイスが求められます。
買い手が仕入税額控除を受けるには、売り手からインボイスを発行してもらい、双方が保存しておく必要があります。インボイス制度の概要については、以下の記事もあわせてお読みください。
免税事業者と課税事業者について
インボイス制度に対応すべきか判断するには、まず自分が免税事業者か課税事業者かをチェックする必要があります。
免税事業者と課税事業者の違いは、「消費税の納付義務があるかどうか」です。
区分 | 条件 | インボイス制度発行 |
---|---|---|
免税事業者 | 基準期間*、もしくは特定期間*の課税売上高が1,000万円以下の事業者 | 不可 |
課税事業者 | 基準期間、もしくは特定期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者 | 可 |
*基準期間とは、個人事業主の場合は原則その年の前々年、法人についてはその事業年度の前々事業年度を指します。*1
*また特定期間とは、個人事業者の場合、その年の前年の1月1日から6月30日まで、法人の場合は、その事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の期間です。 *2
白色申告・青色申告を問わず、基準期間や特定期間における課税売上高によって区分が異なります。
消費税と所得税における確定申告の違い
消費税と所得税は、確定申告の必要がある人と申告のタイミングが異なります。
税の種類 | 確定申告の必要がある人*3 | 申告・納付のタイミング |
---|---|---|
消費税 | ・課税事業者 ・適格請求書発行事業者 など |
課税期間の翌年1月1日から3月31日(休日の場合は翌営業日)*4 |
所得税 | ・課税所得がある人 ・給与の年間収入金額が2,000万円を超える人 など |
課税期間の翌年2月16日から3月15日(休日の場合は翌営業日)*5 |
詳しいスケジュールについては、国税庁のホームページで確認しておきましょう。
インボイス制度によって個人事業主の白色申告・青色申告のやり方は変わる?
結論から言えば、インボイス制度開始後も、個人事業主の白色申告・青色申告のやり方は基本的に変わりません。
インボイス制度はあくまでも消費税に関する制度です。白色申告や青色申告は所得税の確定申告に関係する方式であるため、インボイス制度による直接的な影響はありません。ただし、インボイス制度をきっかけに免税事業者が課税事業者になった場合は、消費税の申告が必要です。
本章では以下の3パターンに分けて、インボイス制度対応方法を解説します。
自分がどのパターンに当てはまるかチェックしたうえで読み進めてみてください。
もともと課税事業者でインボイス登録を行った場合
もともと課税事業者でインボイス(適格請求書)発行事業者の登録を行った場合は、以下2つの対応が必要です。
- 請求書の記載事項を見直す
- インボイスの写しの保存方法を検討する
インボイスに様式の定めはなく、従来の請求書に必要項目を追記すれば問題ありません。記載漏れがないよう、インボイス専用の請求書テンプレートを作成することをおすすめします。記載が必要な項目*6は以下のとおりです。
- インボイス交付先(取引先)の氏名・名称
- 取引年月日
- 税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率
- 売り手の氏名・名称
- インボイス登録番号
- 取引内容(軽減税率の対象品目がある場合はその旨も記載)
- 税率ごとに区分した消費税額
また、インボイス交付後はコピーやデータなどで保存しておく必要があります。会計ソフトなどを活用し、負担なく保存できる方法を検討しましょう。
免税事業者から課税事業者になった場合
免税事業者から課税事業者になると、所得税だけでなく消費税の申告を求められます。消費税は、課税期間の翌年1月1日から3月31日(休日の場合は翌営業日)に、所得税とは別で申告・納付が必要です。
また、免税事業者の消費税の仕訳方法は税込経理方式のみですが、課税事業者になると選択肢が増えます。課税事業者における消費税の仕訳方法は、以下の2つです。
仕訳方法 | 内容 |
---|---|
税込経理方式 | 消費税を売上金額や仕入金額に含めて処理する |
税抜経理方式 | 消費税を売上金額や仕入金額と分けて処理する |
仕訳方法は任意で選択可能で、どちらの方式でも納付する消費税は同額になります。ただし、原則すべての取引について同じ方式で経理処理する必要がある点には注意しましょう。
免税事業者のままでいる場合
免税事業者のままでいる場合は、今後も消費税を申告・納付する必要はありません。
ただし、免税事業者のまま課税事業者と取引を続ける場合、課税事業者側は仕入税額控除を全額受けられず税負担が大きくなります。そのため、消費税額分の値下げを交渉されたり、取引を打ち切られたりする可能性もあります。また、今後は新規営業時にも、インボイスの登録有無によって受注を判断されるかもしれません。
このように、インボイス制度に対応しないデメリットも把握し、場合によっては課税事業者に登録することも検討しましょう。
個人事業主が消費税の申告・納税する場合の計算方式
個人事業主が消費税の申告や納付をする場合、課税方式によって計算方法が変わります。
消費税額は、以下の方式や特例に則って計算します。
本章を参考に、自分がどの計算方式を用いて消費税額を算出するのか理解しておきましょう。
2割特例(インボイス制度の経過措置)
インボイス制度の開始に伴い課税事業者になった場合、令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日の間は2割特例が適用されます。*7
2割特例とは、納付する消費税額を計算する際、本来の売り上げにかかる消費税額からその8割を差し引ける制度です。特例を適用するにあたって別途届出などは不要ですが、消費税の申告時に申告書へ適用を受ける旨を付記する必要があります。*8
原則課税方式
原則課税(一般課税)方式は、一般的な消費税額の計算方式です。
計算方法は以下のとおりです。
課税期間中の課税売上げに係る消費税額-課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額
引用:国税庁「消費税のしくみ 消費税の計算の仕方」より
原則課税方式は、収入にかかる消費税から支出にかかる消費税を差し引いて算出します。もし税率の異なる売り上げがある場合は、それぞれの品目ごとに消費税額を計算したうえで合計する必要があります。
簡易課税方式
簡易課税方式とは、簡易課税制度の適用を受け、仕入税額に関係なく売上税額のみから消費税額を計算する方式のことです。簡易課税方式の計算方法は以下のとおりです。
課税期間中の課税売上げに係る消費税額-(課税期間中の課税売上げに係る消費税額×みなし仕入率)
引用:国税庁 消費税のしくみ 消費税の計算の仕方より
※2種類以上の事業を営んでいる場合は、課税売上高を事業ごとに区分し、それぞれにみなし仕入率を掛けて計算する
簡易課税制度を利用できるのは、基準期間の課税売上が5,000万円以下の事業者です。適用を受けたい年の前年末までに「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
また、簡易課税制度を選択すると、最低2年間継続して適用する必要があります。選択後の2年間は原則課税に戻せないため、注意しておきましょう。
個人事業主における消費税の申告方法
個人事業主の消費税は、以下3つの手順で申告します。
消費税の確定申告書は、所轄税務署の窓口だけでなく、郵送やe-taxでの提出が可能です。本章を参考に、期限内に間に合うよう消費税申告の準備をしておきましょう。
1.申告書を用意する
消費税の申告では、以下2種類の申告書*9を用意する必要があります。
- 消費税及び地方消費税の確定申告書(第一表)
- 消費税及び地方消費税確定申告書(第二表)
申告書第一表は「一般用」と「簡易課税用」があるため、課税方式によって使い分けましょう。
2.添付書類を用意する
課税方式に応じて、申告書とは別で添付書類を用意しましょう。
必要な添付書類は以下のとおりです。
課税方式 | 添付書類 |
---|---|
一般課税 | ・〔付表1-3〕税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表(一般用) ・〔付表2-3〕課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表(一般用)*10 |
簡易課税 | ・〔付表4-3〕税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表(簡易課税用) ・〔付表5-3〕控除対象仕入税額等の計算表(簡易課税用)*11 |
また、所轄税務署の窓口もしくは郵送での申告時は、マイナンバー(個人番号)を確認できる書類を提示(添付)する必要があります。*12
確認書類 | 添付書類 |
---|---|
マイナンバー(個人番号)カード | ・〔付表1-3〕税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表(一般用) ・〔付表2-3〕課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表(一般用)*10 |
・通知カード ・住民票の写し(マイナンバー記載) |
・〔付表4-3〕税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表(簡易課税用) ・〔付表5-3〕控除対象仕入税額等の計算表(簡易課税用)*11 |
スマートフォンとマイナンバーカードがあれば、e-Taxでの申告も可能です。画面の案内を見ながら金額などを入力するだけで申告が完了するため、ぜひ活用してみましょう。
3.期限内に手続きを済ませる
消費税の申告期限は、課税期間の翌年1月1日から3月31日(休日の場合は翌営業日)です。なお、令和5年分の消費税の提出期間は2024年(令和6年)1月1日〜4月1日(月)でした。*13
期限を超過して申告すると、延滞税や無申告加算税が課せられてしまうため、早めに手続きを済ませましょう。
インボイス制度と白色申告・青色申告を行う個人事業主によくある質問と回答
インボイス制度や、白色・青色申告を行う個人事業主によくある質問は以下のとおりです。
本章で紹介する回答を参考に、インボイス制度や確定申告についての理解を深めましょう。
インボイス制度の登録をしないとどうなる?
インボイス制度に登録しない場合、価格や取引自体に影響する可能性があります。
商品・サービスの売り手がインボイスを発行できない場合、買い手である取引先は仕入税額控除を受けられません。税負担が増える分の取引価格の値下げを交渉されたり、取引そのものを停止されたりする可能性があります。
インボイス制度に対応しない場合の問題点や、登録するか否かの判断基準は以下の記事もご覧ください。
消費税の確定申告書の提出期限は?
消費税の確定申告書は、課税期間の翌年1月1日から3月31日(休日の場合は翌営業日)までに提出する必要があります。
申告期限をすぎてから提出すると、無申告加算税又は重加算税が追加でかかる可能性があります。期限までに提出できるよう、計画的に確定申告書を作成しましょう。
消費税を申告しなければならない課税期間は?
個人事業主の消費税における課税期間は、原則1月1日から12月31日までです。1年の途中で開業・廃業した場合でも、課税期間の開始は1月1日、終了の日は12月31日として計算します。*14
課税事業者は、翌年3月31日までに納税地の所轄税務署へ確定申告書の提出と消費税の納付をおこなう必要があります。
インボイス制度は個人事業主の白色申告・青色申告に直接影響しない
本記事では、インボイス制度が個人事業主の白色申告に影響するのかを解説しました。インボイス制度はあくまでも消費税に関するものであり、所得税の申告方法である白色・青色申告に直接的な影響はありません。
ただし白色申告を行っている個人事業主であっても、インボイス制度対応で課税事業者になった場合は消費税の申告が必要になります。
この記事がインボイス制度や白色・青色申告への影響について理解するのに役立てば嬉しく思います。
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※出典
*1 国税庁「消費税課税事業者届出書」より
*2 国税庁「No.6501 納税義務の免除」より
*3 国税庁「確定申告特集 申告の流れ、申告が必要な方」より
*4 国税庁「【消費税及び地方消費税の申告等】Q22 消費税及び地方消費税の申告は、いつまでにすればよいのですか。また、どのように行えばよいのですか。」より
*5 国税庁「Q2 所得税等の確定申告は、いつからいつまでにすればよいのですか。」より
*6 国税庁「インボイスを求められたら?」より
*7 国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」より
*8 国税庁「Q24 インボイス制度開始を機に、免税事業者からインボイス発行事業者になりました。インボイス発行事業者は申告の必要があると聞きましたが、申告に当たって特例はありますか。」より
*9 国税庁「【消費税及び地方消費税の申告等】 Q27 消費税及び地方消費税の申告は、どのような申告書を使えばよいのですか。また、申告書を提出する際に必要な書類はどのようなものがありますか。」より
*10 国税庁 令和4年分 消費税及び地方消費税の確定申告の手引き 個人事業者用(一般用)(P8)より
*11 国税庁 令和4年分 消費税及び地方消費税の確定申告の手引き 個人事業者用(簡易課税用)(P8)より
*12 国税庁「令和4年分 消費税及び地方消費税の確定申告の手引き 個人事業者用(一般用)」より
*13 国税庁「【消費税及び地方消費税の申告等】Q22 消費税及び地方消費税の申告は、いつまでにすればよいのですか。また、どのように行えばよいのですか。」より
*14 国税庁「No.6137 課税期間」より