一人ひとりの成長を促し、効率や生産性を向上させる手段として重要視されているコンピテンシーという言葉。「コンピテンシーとは一体どういう意味?」そう考える方もいるのではないでしょうか。
今回の記事では、コンピテンシーの意味や活用例のほか、コンピテンシー評価を導入する手順についてくわしく解説します。ビジネスパフォーマンスを高める要素として重要なコンピテンシーについて、ぜひ理解を深めていきましょう。
コンピテンシーとは
コンピテンシー(Competency)とは、高い能力で成果をあげる人材(ハイパフォーマー)の行動特性を意味します。主に、社内の人事評価や人材育成などで活用される言葉で、仕事で高い業績を上げる人には、共通する行動特性があるといわれています。
ハイパフォーマー人材から抽出されるコンピテンシー項目をもとに人事戦略を策定すると、成果主義による人事評価が行えるようになります。たとえば、社員の人事評価の基準や研修プログラムの設計など、ハイパフォーマー人材に共通した行動特性を活かすことで、成果を上げやすい人事評価の実施に役立つのです。
ハイパフォーマー人材が成果を上げるために、どのような思考で行動したのかを分析し、人材育成から企業の成長につなげられるようになります。
コンピテンシーに関連する用語との違い
コンピテンシーには以下のような類語・関連語があります。
- スキル
- アビリティ
- コア・コンピタンス
- ケイパビリティ
これらの単語のとの違いについてくわしく解説します。
スキルとの違い
スキルとは、訓練や学習により培われた能力を指します。もともと生まれ持った才能とは異なり、能動的な努力により知識や技術を磨けば、伸ばすことのできる能力です。たとえば、語学スキルやコミュニケーションスキル、Webスキルなどがあります。
スキルは後天的に習得できる能力で、コンピテンシーはスキルを発揮するための力です。
アビリティとの違い
アビリティとは、能力や技能、力量を指す言葉です。スキルと似た意味を持ちますが、スキルは「ある業務において優れた技能」を指すことが多く、アビリティは「仕事全般に対する総合的な能力」と広く解釈されています。
コンピテンシーは能力や技能を発揮する行動特性を表し、アビリティは発揮する能力や技能そのもの。アビリティは職務を遂行するうえでの総合的な能力として用いられる言葉です。
コア・コンピタンスとの違い
コア・コンピタンスとは、企業が強みとして持つ「中核能力」を指す言葉です。core(中核)・conpetence(能力)を合わせた言葉で、1990年にゲイリー・ハメルとC.K.プラハラードが発表しました。
具体的には、競合他社にない圧倒的な価値や優位性のことを指し、他社には真似できない自社独自のサービスや商品などを意味します。コンピテンシーは個人の行動特性を示すものですが、コア・コンピタンスは組織の中核となる強みという点が2つの違いです。
ケイパビリティとの違い
ケイパビリティ(capability)とは、企業全体の組織的な能力や競合他社より優位な強みを意味する言葉として活用されます。自社の強みを発揮し、競合他社に勝ち抜くためには、組織としてのケイパビリティを伸ばしていくことが大切です。
コンピテンシーとケイパビリティは、能力を持つ対象そのものが違います。ケイパビリティは組織や事業全体の能力を指しているため、組織を構成するハイパフォーマー人材が持つコンピテンシーは、ケイパビリティを高めるための要素といえるでしょう。
コンピテンシーの活用例4つ
コンピテンシーは、人事評価、採用面接、人材育成などの場面で活用できます。ここからは、それぞれの活用方法を解説します。
採用活動
コンピテンシーは、採用面接の場面において、採用指標のひとつとして活用されています。ハイパフォーマー人材のコンピテンシーをもとに採用基準を設けることで、入社後活躍できる人材かどうかを判断する材料となるのです。
たとえば、「前職で成果を上げるためにした行動や工夫した点は?」などと質問すると、応募者の行動特性を把握できます。採用の段階で、応募者のコンピテンシーが自社とマッチするか見定めることで、入社後のミスマッチを防ぎやすくすることが期待できるでしょう。
人事評価
コンピテンシー評価は人事評価の場面においても活用されています。人事評価制度には、MBO(目標管理制度)や360度評価などが広く活用されていますが、コンピテンシー評価を取り入れることで、業務に対するプロセスを客観的に評価できるようになりました。
人事評価にコンピテンシー評価を取り入れる場合は、自社のハイパフォーマー人材の行動特性を項目ごとに細かく分析する必要があります。業績や成果だけでなく、行動特性についても評価しやすくなるため、より客観的な人事評価が行えるようになるでしょう。
マネジメント
コンピテンシー評価により可視化された行動特性をマネジメントに活用することを、コンピテンシーマネジメントといいます。コンピテンシーマネジメントを活用することでのメリットを以下にまとめました。
- 人材教育が効率化される
- 適切な人材配置ができる
- 管理職の育成
従業員のコンピテンシーを評価することで、一人ひとりのスキルや行動特性を正しく客観的に評価できます。成果や業績だけにとらわれず、業務を遂行する過程に着目できるため、長期的な人材育成にも役立つでしょう。
人材育成・研修
コンピテンシーの活用は、人材育成や研修の場面においても活用されます。社員にハイパフォーマーの行動特性や思考を明示することで、企業全体としてのレベルやパフォーマンスの向上が期待できます。
また、それぞれの職務等級に合わせてコンピテンシーを設定することで、従業員が能力を発揮しやすくなり、モチベーションの向上にも役立つでしょう。従業員の自発的かつ積極的な行動を促すことが、組織活性化につながります。
コンピテンシー評価を導入する手順
ここからは、コンピテンシー評価を導入するための手順について解説します。従業員のレベルやパフォーマンス向上が企業全体の成長を促すポイントとなるため、ぜひ参考にしてみてください。
- ハイパフォーマーから情報を集める
- 集めた情報から行動特性を抽出する
- コンピテンシーモデルを作成する
- 評価項目を作成する
- レベル分けによって評価基準を設定する
1.ハイパフォーマーから情報を集める
まずは、コンピテンシー評価項目を作成するために、自社において高い能力で成果を上げているハイパフォーマー人材から情報を集めましょう。業績や成果をもとに、細かい視点からヒアリングしていきます。
ヒアリングの際に注意するポイントは、成果や業績だけにとらわれないことです。ハイパフォーマー人材が成果や業績を上げるために、どのような行動を取ったのか、またその背景にある思考や価値観まで深掘りして情報を集めていくと効果的でしょう。
2.集めた情報から行動特性を抽出する
ハイパフォーマー人材へのヒアリングで得た情報から、行動特性を抽出していきましょう。ハイパフォーマー人材から得た情報は、企業レベルやパフォーマンスを底上げするためのヒントが詰まっています。行動特性を抽出する際の項目の参考例を以下にまとめました。
- 自己認知能力
- 第一印象度
- 提案力
- 素直さ
- 目標達成への執着
- チャレンジ精神
- 組織力・チームワーク
- 業務遂行力
- 戦略思考
- 情報収集力、情報整理力
- 指示・統率力
自社のハイパフォーマー人材が持つコンピテンシーと照らし合わせていくことで、行動特性が抽出されます。
3.コンピテンシーモデルを作成する
ハイパフォーマーの行動特性が抽出されたら、評価の基準とするコンピテンシーモデルを作成しましょう。コンピテンシーモデルは以下の3タイプがあります。
- 理想型モデル
- 自社にとって理想的な人物像をもとに作成したモデル。自社の理念や自社が求める人物像をベースにしているため、ハイパフォーマー人材がいない環境であっても作成しやすい。時間やコストをかけずに作成できるのがメリットである一方、あまりに理想を追い求めると現実とのギャップが大きくなってしまうデメリットもある。
- 実在型モデル
- 自社に実在するハイパフォーマー人材をベースにしたコンピテンシーモデル。コンピテンシー評価を導入する企業の多くで活用される。実在するハイパフォーマー人材であるため、周囲の社員も納得感が得やすく取り組みやすい反面、能力があまりに長けていると再現性が低くなってしまうことも。再現性のある行動特性から参考にすると活用しやすい。
- ハイブリッド型モデル
- 理想型と実在型の両方の特徴を複合させ作成するモデル。一方に偏らずに作成するため、既存のハイパフォーマー人材にとってもモデルとなる。両方のモデルのメリットを併せ持つため、優れたコンピテンシーモデルとして活用される。
これらのコンピテンシーモデルを参考に作成していきます。
4.評価項目を作成する
次に、コンピテンシーを評価する項目を作成していきます。コンピテンシー評価項目を作成する際は、1993年にライル・M.スペンサーとシグネ・M.スペンサーが提唱した、コンピテンシー・ディクショナリー*1を参考にしてみてください。
コンピテンシー | コンピテンシー項目 |
---|---|
1.達成・行動 | 達成思考 秩序・品質・正確性への関心 イニシアチブ情報収集 |
2.援助・対人支援 | 対人理解 顧客支援志向 |
3.インパクト・対人影響力 | インパクト・影響力 組織感覚 関係構築 |
4.管理領域 | 他者育成 指導 チームワークと協力 チームリーダーシップ |
5.知的領域 | 分析的志向 概念的志向 技術的・専門職的・管理的専門性 |
6.個人の効果性 | 自己管理 自信 柔軟性 組織コミットメント |
*引用元:井村直恵「日本におけるコンピテンシーーモデリングと運用ー」より
コンピテンシーを体系化し包括的な尺度をつけ、6分類21項目のコンピテンシーを抽出し構成したものです。コンピテンシー評価において明確な基準はないため、上記の項目を参考にしてみると良いでしょう。
5.レベル分けによって評価基準を設定する
評価項目を設定した後は、それぞれの項目ごとにレベルを設定します。レベルの設定は以下の5段階を参考にしてみてください。
- 受動行動
- 指示を受けて部分的に業務を行うレベル
- 通常行動
- 決められた業務を問題なく行えるレベル
- 能動行動
- ルール内で主体的に業務を行えるレベル
- 創造行動
- 成果を上げるために自ら工夫した行動が取れるレベル
- パラダイム転換行動
- かつてない発想で新たなものを作り出せるレベル
このように、コンピテンシーを設定するときは、5段階に社員のレベルを分けていきます。行動レベルごとに分けていくため、現状把握や今後の予測のほか、期待される姿を客観的に認識しやすくなるでしょう。
コンピテンシー評価の効果を高めるためのポイント
コンピテンシー評価は、客観的かつ公平性のある人事評価が可能となり、人材教育に活用しやすくなるといったメリットがあります。一方で、コンピテンシー評価の導入にはコストがかかり、長期的視点での運用が必要というデメリットもあります。これらの側面を理解したうえで、コンピテンシー評価の効果を高めるためのポイントについて解説していきます。
導入目的を明確にしておく
社員のコンピテンシーを高めるためには、まずコンピテンシー評価そのものを導入した目的を明確化させておくことが重要です。コンピテンシー評価を導入するに至った経緯や目的を洗い出すことで、コンピテンシー評価による効果を最大限に活用できます。
コンピテンシー評価は、社員の能力向上により成果を上げさせ、企業全体の成長につなげることが目的です。導入により、ただ社員の行動を促すだけのツールとならないよう、成果を上げるための行動であるという認識を持つことが大切だといえます。
企業理念やビジョンとの整合性を意識する
コンピテンシー評価は、企業の経営方針として定める経営理念(MVV:Mission Vision Valueなど)との整合性が取れた内容とする必要があります。企業理念やビジョンとコンピテンシー評価が矛盾している場合は、社員は間に挟まれダブルバインド*を起こし混乱してしまうでしょう。
コンピテンシー評価により混乱を起こすことのないよう、企業理念として掲げる方針とコンピテンシー評価の方針に整合性を持たせるようにしましょう。一貫性のある内容ならば、社員は納得し行動促進しやすくなるといえます。
*ダブルバインド:両者間の矛盾に混乱する様子、二重拘束
効果検証と改善を繰り返す
コンピテンシー評価は長期的な視点で運用し、効果検証と改善を繰り返していく必要があります。効果検証のポイントは以下を参考にしてください。
- 策定したコンピテンシーが正しく機能しているか
- 内容が状況や社会情勢とマッチしているか
- 設定目標が明確な内容となっているか
また、策定内容を短期間で変更するのは、内容に一貫性がなくなりやすいため注意が必要です。一方で、一度策定しアップデートせずに運用し続けることも効果的ではありません。コンピテンシー評価が機能しているか、適宜効果検証と改善を図ることが大切です。
社内全体から十分な理解を得ておく
コンピテンシー評価を導入する際は、社内全体へ十分な説明を行い、理解を得る必要があります。コンピテンシー評価を効果的なものとするには、社内全体がコンピテンシー評価を導入する目的を把握することが大切です。企業側が一方的なコンピテンシーモデルを策定してしまうと、社員のモチベーション低下や早期退職につながるリスクがあります。
社員との意見をすり合わせたうえで導入することも大切ですが、導入後もアンケートなどを活用し、コンピテンシー評価の効果を高めるためのヒアリングを継続していきましょう。
コンピテンシーを高め、高い成果を上げる人材になろう!
コンピテンシーは、ハイパフォーマーに共通の特性を指します。ハイパフォーマーは高い成果を上げられるため、市場価値の高い人材として認められています。コンピテンシーを高めるためには、スキルを習得し活用していくことが大切です。
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※引用
*1:井村直恵「日本におけるコンピテンシーーモデリングと運用ー」より