物であふれる現代において、商品・サービスの価格や機能だけで差別化を図るのが難しくなってきています。ユーザーが商品・サービスそのものだけでなく、それらを通して得られる「体験」に重きを置くようになり、UXデザインが注目されているのです。
本記事では、UXデザインとは何か、UIデザインとの違いやUXデザインを考えるプロセス、具体的事例や勉強方法などを紹介します。
UXデザインとは?
UXとは「User Experience(ユーザーエクスペリエンス)」の略称です。わかりやすく説明すると、商品やサービスを通してユーザーが得る体験のことを意味します。たとえば、Webサイトやアプリで「スムーズにホテルの予約ができた」「欲しい商品が見つけやすかった」などがUXです。
つまり、UXデザインとは「ユーザーにとっての良い“体験”を設計すること」を指します。ユーザーが求める体験は日々変化していくため、幅広い視野を持ちニーズを正確に捉えることが大切です。
UIデザインとの違い
UXデザインとよく似た言葉で、UIデザインがあります。「UIUX」とセットで使用されることが多いため、具体的な違いがわからない人も多いでしょう。
UIとは「User Interface(ユーザーインターフェース)」の略称で、サービスやプロダクトとユーザーをつなぐ接点のことです。たとえばサイトのデザインや文字のフォント、レイアウトや配色などが当てはまります。つまりUIデザインとは、「ユーザーが快適に使える“商品やサービス”を設計すること」なのです。
UXデザインを考えるプロセス
ここでは、UXデザインを考えるための具体的プロセスを紹介します。以下の5つのステップでUXデザインを考えるのが一般的です。
- ユーザーニーズの調査
- ユーザーニーズの分析
- UXデザインの設計
- ユーザー検証による調査
- ユーザー調査をもとにした改善
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.ユーザーニーズの調査
UXデザインを設計するときは、ユーザーニーズの調査から始めます。単純なデータ分析だけでは得られない、ユーザーの無意識的行動や価値観を知ることが目的です。その後のデザインプロセスを正確に進めるために、欠かせない工程といえます。
具体的ユーザーニーズの調査方法には、インタビューやアンケート、専門家によるユーザビリティ評価などが挙げられます。UXデザインの対象がWebサイトの場合は、アクセス解析やABテスト(2つのデザインで効果を比較すること)などで情報を集めるのも効果的でしょう。
2.ユーザーニーズの分析
調査結果を元に、ユーザーニーズの分析に移ります。ユーザーの顕在的ニーズを整理するのはもちろん、ユーザー自身も認識していない潜在的ニーズを発見するためにも重要な工程です。
たとえばユーザーが商品・サービスを認知してから購入に至るまでのプロセスを時系列でまとめたカスタマージャーニーマップや、カード状の紙を用いて情報を整理するKJ法などを用いてニーズを抽出します。調査内容に合わせた分析方法を選択し、正しい結果を得ることが重要です。
3.UXデザインの設計
ユーザーニーズの調査・分析を終えたら、いよいよUXデザインの設計に入ります。ここで注意したいのが、実際のデザインの実装には技術やコスト、納期などさまざまな問題が生じることです。たとえ机上でユーザーにとって理想的な体験を描けたとしても、設計の段階で難しくなることは少なくありません。
ここで効果的なのが、プロトタイプ(試作品)の作成です。まずはユーザーニーズを満たす最小限のプロダクトを設計し、課題を洗い出しながら進めることで、大きな失敗を防げます。
4.ユーザー検証による調査
作成したUXデザインを元に、評価を行いましょう。ユーザー検証を通して、ニーズを的確に満たしているか、本来の目的からずれた設計になっていないかを確認する大切な工程です。
具体的には、ユーザーアンケートやインタビュー、ユーザビリティテストなどを行います。クリックやサイト滞在時の閲覧状況が分かるヒートマップなど、ツールを導入するのも効果的です。評価対象の商品・サービスの特性に合わせて、適切な検証方法を採用してください。
5.ユーザー調査をもとにした改善
UXデザインは、一度設計して終わりということはほとんどありません。よりユーザーニーズを満たすためにはどうすれば良いかを分析して設計し、検証することが重要です。
場合によっては、商品・サービスのデザインだけでなくペルソナやコンセプトの見直しが必要なこともあります。PDCAを繰り返しながら、理想と現実のギャップを徐々に埋めていきましょう。
UXデザインに必要な7原則
ここでは、UXデザインの設計に最も適したフレームワーク「UXハニカム」を紹介します。UXハニカムは、情報アーキテクチャの開拓者である情報設計家、ピーター・モービル氏が考案したUXデザインに必要な7原則です。*1
- 有用性……商品そのものやそれらに付随する機能はユーザーにとって意味があるか
- 使いやすさ……使用にあたってユーザーにストレスを与えないか
- 好ましさ……ユーザーを惹きつけ、わくわくさせる見た目か
- 見つけやすさ……コンテンツや機能が容易に見つかるか
- アクセス性……身体的・精神的能力に関係なく誰もが不自由なく使えるか
- 信頼性……ユーザーの期待に応える商品・サービス設計か
- 価値……ユーザーの本質的ニーズを満たす商品・サービスか
一般的に、この7つがそろうと優れたUXが実現するといわれています。UXデザインを設計する際に念頭に置いておくと良いでしょう。
UXデザインの事例
UXデザインの成功事例を3つ挙げてみました。どのようなシーンで活用されているのか知り、UXデザインをビジネスに役立てていきましょう。
Netflixの例
Netflixは、映画やドラマなど幅広いコンテンツを配信するストリーミングサービスです。ユーザーに快適かつ楽しい視聴体験を提供するためにUXを見直し続け、登録者数の増加に成功しました。
数多くある動画をジャンル・人気度などのカテゴリーで分類する、水平スクロールで見やすい表示にする、マイリストへの追加やダウンロードも簡単にできるようにするなど、さまざまな工夫を凝らしています。イントロをスキップできる機能や次のエピソードにすぐ飛べる機能も、注目すべきUXデザインといえるでしょう。
LINEの例
LINEは、UXデザインに注力している企業のひとつです。使いやすさを重視したUXデザインの改善を行い、多くのユーザー獲得に成功しました。
LINEは通常のコミュニケーションツールと異なり、相手とのやりとりがひとつの画面に時系列表示されます。まるで会話しているように見えるデザイン設計が魅力です。LINE利用のための会員登録やログインが不要なのも、使いやすさに重きを置いた設計といえるでしょう。
クックパッドの例
クックパッドは他の料理アプリとの差別化を図るべく、良質なユーザー体験を生むための工夫をたくさん行っています。その結果、日本最大の料理レシピサービスにまで成長しました。
例えば「料理きろく」ですが、こちらはスマホから料理写真だけを自動で抽出し、自動で毎日の料理記録を作成してくれる機能です。そのほか撮影した食材に合わせてAIがレシピを提案する「AIおすすめ料理」なども追加されました。ユーザーに「また使いたい」という気持ちを抱かせるUXデザインといえるでしょう。
UXデザイナーの仕事内容と必要なスキル
UXデザイナーの仕事はユーザーが求めることを正しく理解し、提供すべきユーザー体験を作ることです。具体的にはアンケートや市場調査、ユーザーインタビューなどによりニーズを把握し、適切なサービス設計を行います。そのため、優れた情報収集能力やマーケティングスキルが必要です。
また、商品やサービスは一度作ったら終わり、というわけではありません。ユーザーの行動やニーズの変化を正確に捉え、継続的にUXを改善していくこともUXデザイナーの仕事です。UXデザイナーは、ビジネスの成長に直結する重要な役割を果たしているといえるでしょう。
UXデザインを勉強するには
UXデザインの勉強方法は、主に下記の2つです。
- 本で学ぶ
- スクールや学習サイトで学ぶ
それぞれのメリットやデメリット、どんな人におすすめか詳しく解説します。
本で学ぶ
本を用いてUXデザインを学ぶメリットは、基礎から応用まで幅広い知識を体系的に学べることです。自分に合ったレベルや深めたい分野に応じた書籍を選択でき、金銭的コストがあまりかからないのも魅力といえます。
ただし、わからないことがあっても誰かに聞くことが難しく、スキル習得に時間がかかる傾向にあるため、初心者は学習が停滞しがちです。すでにデザインに関する基礎知識を持っている人、時間的コストがかかっても問題ないという人にはおすすめといえるでしょう。
スクールや学習サイトで学ぶ
スクールや学習サイトで学ぶメリットは、効率的に勉強できることです。時間を有効活用したい人、できるだけ早くスキルを習得したい人におすすめといえます。単純な知識のインプットだけでなく、実際に自分で手を動かしてUXデザインへの理解を深めていけることも強みといえるでしょう。
比較的短期間でスキル習得ができるぶん、少し費用がかかるのがデメリットです。また、スクールや学習サイトはそれぞれ特徴があります。講座時間が決まっている、レッスン回数に制限がある、サポート体制が整っているなど特徴を比較し、自分に合ったものを選択しましょう。
UXデザインのスキルを身につけ、サービスの質向上に役立てよう
UXデザインは、ユーザーに最適な体験を提供できるように商品やサービスを設計することです。本記事で紹介したプロセスや必要な7原則、具体的事例を参考に、UXデザインを商品やサービスのクオリティ向上に活かしていきましょう。
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※出典
*1 「Semantic Studios」The User Experience Honeycombより