情報処理技術者試験は、情報技術者としてのスキルを客観的に評価してもらうために役立ちます。ITスキルを分野別に証明できるので、IT専門職から一般のITユーザーまで幅広く活用できます。一方で、幅広い種類の試験からどれを受験すべきか迷う方もいるかもしれません。
本記事では、情報処理技術者試験の概要と試験ごとの難易度を解説します。2024年度に受験を検討している方は、試験日程も参考にしてみてください。
情報処理技術者試験とは
情報処理技術者試験とは、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)*1が主催する国家試験です。情報処理技術者としての知識や技能が、一定以上の水準であることを証明します。
特定のIT関連の製品やソフトウェアに関する試験ではなく、情報処理技術の原理や基礎など、ITの背景に関する知識が幅広く問われる試験です。IT化社会に適応するためのスキルとして、情報処理技術試験を評価する企業の動きもみられます。
以下の記事では、情報処理技術者試験を含めたIT業界において役立つ資格を紹介しています。気になる方はぜひあわせてお読みください。
難易度は共通キャリア・スキルフレームワークのレベル1~4に相当
情報処理技術者試験の難易度は、共通キャリア・スキルフレームワークに基づくレベル判定7段階のうち、「レベル1〜4」に該当します。レベルが高くなるにつれて難易度が高まり、情報処理技術者試験は以下のように設定されています。
レベル1 | ITパスポート試験 |
---|---|
レベル2 | 情報セキュリティマネジメント試験、基本情報技術者試験 |
レベル3 | 応用情報技術者試験 |
レベル4 | ITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験、システムアーキテクト試験、プロジェクトマネージャ試験、ネットワークスペシャリスト試験、データベーススペシャリスト試験、エンベデッドシステムスペシャリスト試験、ITサービスマネージャ試験、システム監査技術者試験 |
共通キャリア・スキルフレームワークのレベルはあくまでも目安として把握しておきましょう。合格難易度は現状の知識や経験、受験年度における出題内容によって変動するためです。実際にITパスポート試験よりも情報セキュリティマネジメント試験のほうが合格率が高いケースもあります。各試験の合格率については以下の「情報処理技術者試験の種類」で解説します。
試験合格を目指すメリットは?
IT化社会が進む現代で、情報処理技術者試験は一定のITスキルを証明する手段になります。ITスキルの種類は幅広く、評価をつけ、可視化することが難しいでしょう。情報処理技術者試験に合格することでレベル・分野別にITスキルを証明できます。企業などの第三者目線から評価されるポイントにもなるので、キャリアアップに役立つ場面もあるでしょう。
情報処理技術者試験の合格を必須とする職種はありませんが、資格取得をきっかけに市場での自分の競争力を向上させ、理想の仕事に挑戦できるかもしれません。企業内で経営やマネジメントポジションへの昇進の機会を広げるためにも、資格はスキルと向上力の証明となるでしょう。
情報処理安全確保支援士試験との違い
「情報処理安全確保支援士試験(登録セキスペ)」は、サイバーセキュリティを推進する人材に向けた国家資格です。情報処理技術者試験と関連する資格である一方で別枠に分類されています。
情報処理技術者試験と情報処理安全確保支援士試験の大きな違いの一つは、合格後の流れです。合否判定後に資格取得ができる情報処理技術者試験に対し、情報処理安全確保支援士試験(登録セキスペ)は、合格後も資格維持のための講習を受講する必要があります。情報処理技術者試験に合格したあとの、ステップアップとしても適している資格です。
情報処理技術者試験の種類
情報処理技術者試験は、13つの試験区分、難易度は1〜4レベルに分けられます。前述した「情報処理安全確保支援士試験(登録セキスペ)」は、別枠に分類されます。
引用: IPA 独立行政法人 情報処理推進機構「試験区分一覧」より
複雑化するIT化社会を背景に、必要な知識やスキルも細分化されてきています。各試験の特徴や難易度を、詳しくみていきましょう。
ITパスポート試験
ITパスポート試験は、共通的なIT知識を証明するための試験です。全社会人を対象にしており、学生・ビジネスパーソン問わず受験できます。試験内容は、情報技術の基本概念や用語、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、セキュリティなどの知識などです。情報処理技術者試験の中で最も易しい「レベル1」となっており、2024年1月時点において令和5年度の全体の合格率は50%*2前後で推移しています。
情報セキュリティマネジメント試験
情報セキュリティマネジメント試験は、組織の情報を守るためのスキルを認定する試験です。ITの安全な利活用を推進する者に向けた試験で、複雑化するサイバー攻撃などから情報を守るための知識やスキルを高めることを目的としています。企業機密や個人情報などを外部から守るための管理方法、対策、法規に関する知識が問われます。試験のレベルは「レベル2」となっています。2024年1月時点において令和5年度の全体の合格率は約70%*3です。
基本情報技術者試験
基本情報技術者試験は、製品・サービス・システムなどを開発するIT技術者に向けた試験で、「ITエンジニアの登竜門」とも言われています。高度IT人材を目指すための土台となる基本的知識を網羅しています。試験内容には、データベース・プログラミング基礎などが含まれます。試験の難易度は「レベル2」です。令和5年度における合格率は40〜60%*4で推移してます。
応用情報技術者試験
応用情報技術者試験は、より実践的で高度なITスキルを認定するための試験です。基本的な情報技術試験よりも、さらに掘り下げた応用的な知識とスキルが求められます。IT経営戦略から実践的な運用まで、情報技術知識の全般を理解する必要があります。試験の難易度は「レベル3」で、令和5年度春期試験の合格率は27.2%*5です。令和元年度からは20〜30%*5で推移しています。
ITストラテジスト試験
ITストラテジスト試験は、簡潔にまとめると「ITの戦略家」としての知識が求められる試験です。ITを活用しながら、組織で戦略設計を行うためのスキルが問われます。主にITコンサルタント、企業のCIO(最高情報責任者)、CTO(最高技術責任者)を目指す人に適しているでしょう。試験の難易度は「レベル4」となっており、令和5年度春期試験の合格率は15.5%*5です。令和元年度からは15%*5前後で推移しています。
システムアーキテクト試験
システムアーキテクト試験では、「IT設計士」に必要なスキルが求められます。システムやソフトウェアの設計、適切な技術やツールを選択するスキルが問われます。ソフトウェア開発者としてシステム全体の設計に関与したいと考えている方に向いているでしょう。試験の難易度は「レベル4」であり。令和5年度春期試験の合格率は15.8%*5です。令和元年度からは15〜16%*5あたりで推移しています。
プロジェクトマネージャ試験
プロジェクトマネージャ試験は、プロジェクトの運営と適切な意思決定力が問われる試験です。高度IT人材として、プロジェクトの予算設定や計画管理を行うための知識が求められます。プロジェクトを円滑に進めるための戦略や法律まで、幅広い知識が必要です。試験の難易度は「レベル4」であり、令和5年度秋期試験の合格率は13.5%*6です。令和元年度以降は13〜15%*6で推移しています。
ほかプロジェクトマネジメントに関する資格について気になる方はぜひ以下記事をご覧ください。
ネットワークスペシャリスト試験
ネットワークスペシャリスト試験では、ネットワークに特化した専門分野が問われる試験です。ネットワークを構成するシステムや通信プロトコルなど、高度な専門知識を学ぶことができます。ネットワークエンジニアなど専門職のスキル証明として活用できるでしょう。試験の難易度は「レベル4」、令和5年度春期試験の合格率は14.3%*5です。令和元年度からは12〜17%*5あたりで推移しています。
データベーススペシャリスト試験
データベーススペシャリスト試験では、データ管理、データベースシステムの構築、データ分析などに関する高度な知識が出題されます。ビッグデータ時代の膨大な情報を効率的に処理するスキルとして、主にデータベースエンジニアなどの専門職で活用できるでしょう。試験の難易度は「レベル4」です。令和5年度秋期試験の合格率は18.5%*6となっており、令和元年度以降は15〜18%*6あたりで推移しています。
エンベデッドシステムスペシャリスト試験
エンベデッドシステムスペシャリストは、簡潔にまとめると「loT系エンジニア」のための資格です。IoT機器を含むシステム開発スキルを活用するための試験で、市場動向・関連業界の動向を踏まえながら、最適な組込みシステムの事業戦略や製品戦略を策定します。試験の難易度は「レベル4」、令和5年度秋期試験の合格率は16.6%*6です。令和元年度以降は16〜20%*6の間で推移しています。
ITサービスマネージャ試験
ITサービスマネージャ試験では、システム導入から改善までITマネジメントに関する幅広い知識が求められます。セキュリティ対策、リスクヘッジ、サービス改善のための立案など、運用から管理まで全ての分野の問題に対処できる必要があります。
試験の難易度は「レベル4」、令和5年度春期試験の合格率は15.2%*5です。令和元年度以降は15%*5前後で推移しています。
システム監査技術者試験
システム監査技術者試験では、システム障害が起こるリスクを把握し、安全性が十分であるかを客観的に点検するための知識が問われます。合格には、IT全般の知識に加えて企業活動に関する知識も必要です。主に監査人や情報システム責任者にとって、システムを安全に運営するための手助けとなるでしょう。
試験の難易度は「レベル4」令和5年度秋期試験の合格率は16.4%*6です。令和元年度以降は15〜16%*6あたりで推移しています。
【2024年度】情報処理技術者試験の日程
2024年度(令和6年度)の情報処理技術者試験の日程は、以下の通りです。
試験日程 | 試験の名前 |
---|---|
通年で申し込み可 | ITパスポート試験(IP) 情報セキュリティマネジメント試験(SG) 基本情報技術者試験(FE) |
令和6年4月21日(日曜日、春期試験) | 応用情報技術者試験(AP) ITストラテジスト試験(ST) システムアーキテクト試験(SA) ネットワークスペシャリスト試験(NW) ITサービスマネージャ試験(SM) 情報処理安全確保支援士試験(SC) |
令和6年10月13日(日曜日、秋期試験) | 応用情報技術者試験(AP) プロジェクトマネージャ試験(PM) データベーススペシャリスト試験(DB) エンベデッドシステムスペシャリスト試験(ES) システム監査技術者試験(AU) 情報処理安全確保支援士試験(SC) |
※出典:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験の実施予定について」より
試験ごとに開催頻度は異なるので、受験時期を逃さないよう、試験申し込み受付期間は早めに確認しておきましょう。
情報処理技術者試験に関するよくある質問と回答
情報処理技術者試験に関するよくある質問とその回答について、解説します。
試験の合格発表はいつ?
情報処理技術者試験の合格発表日は試験ごとに異なりますが、基本的には試験日の約1ヶ月後に合格発表が行われています。詳しくは以下のWebサイトからご覧ください。
参考: IPA 独立行政法人 情報処理推進機構「合格発表日、合格証書発送日、官報公示日」より
独学でも合格は可能?
情報処理技術者試験に決まった受験資格はないため、独学でも受験は可能です。しかし、区分によって難易度は異なるため、実務経験なし・独学での合格は難しいと言われている試験もあります。独学で受験を進めたい場合は、まず自分のレベルに合わせた試験に挑戦してみるのもよいかもしれません。ほか、独学で取得を目指せる資格について気になる方はぜひ以下の記事を参考にしてください。
おすすめの勉強法は?
情報処理技術者試験合格を目指すために、参考書や過去問を活用してみましょう。試験内容を一通り把握するために、はじめに過去問を解いて問題の傾向を把握しておくのもおすすめです。広い出題範囲に対応しなければいけない試験もあるので、効率的な学習を目指す方は、通信講座やオンラインスクールの活用も検討してみましょう。資格試験の効率的な勉強方法やポイントについて知りたい方は、ぜひ以下の記事もあわせてお読みください。
情報処理技術者試験を活用してITスキルを高めよう
情報処理技術者試験は、レベル・分野別のITスキル証明に役立ちます。試験によって難易度が異なるので、自分のレベルに合った試験を選んで受験してみましょう。将来就きたい職業や高めたいスキルに合わせて試験を選んでみるのもよいかもしれません。
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<出典>
*1:「IPA 独立行政法人 情報処理推進機構」より
*2:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構「情報処理技術者試験 統計資料 令和5年12月度 ITパスポート試験」p1より
*3:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構「情報処理技術者試験 統計資料 令和5年12月分 情報セキュリティマネジメント試験」p1より
*4:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構「情報処理技術者試験 統計資料 令和5年12月分 基本情報処理技術者試験」p1より
*5:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構「情報処理技術者試験 情報処理安全確保支援士試験 統計資料 令和5年 秋期試験」p1より
*6:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構「情報処理技術者試験 情報処理安全確保支援士試験 統計資料 令和5年 秋期試験」p3より