「育児中だから仕方ない」その言葉で自分を納得させながら、私は、母としても、ひとりの人間としても、どこへ向かうのだろう。
考え抜いた私の答えはどちらも捨てない。そのためにSHElikesというキャリアスクールへ通い、人生の再構築を始めることにした。在宅で学び直し、選択肢を増やす。
これは35歳、二児の母が、「母親だから仕方ない」を卒業するまでの話。
幸せだった育休
子を生んで、母になった。それは、人生の中で感じたことのない幸せな時間だった。長い育児休業を経て戻った部署は、今まで経験のなかった総務。
十数年、経理としてキャリアを積むことしか考えてこなかった私にとって、その辞令はあまりにあっけなかった。それは復職の数日前、LINEで知らされた。
総務は負荷も少ないし、会社なりの配慮だったのだと思う。それでも私は、通勤電車の中で毎日悔しさをかみしめていた。
一年前、私は静かな部屋で、まだ寝返りもできないわが子と過ごしていた。柔らかくて温かい体。小さな手が、私の指を握り返す。兄の帰宅とともに夜泣きと食事に追われ、毎日あっという間に過ぎていったけれど、あの時間は紛れもなく幸せだった。
彼らが幸せに暮らせるように。育休中は、それだけを考えていた。日に日に大きくなる我が子たちを見ていると、同時に社会復帰への不安も大きくなっていった。
私は、どれだけ置いていかれたのだろう。パソコンなんて、もう数か月触っていない。会社の画面が、見知らぬ世界になっていたらどうしよう。
社会から遠ざかれば遠ざかるほど、自分という存在が小さな点に思えるのだ。
戦力外の復職初日
復職の日。緊張して、いつもより二十分早い電車に乗った。オフィスカジュアルのはずなのに、ママ感が抜けない気がする。
「総務が二人辞めちゃってね、会社のこと知ってる人がいいってことで」上司は申し訳なさそうに言った。
なるほど、派遣の代わりか。私はへたくそな笑顔で、「わかりました」と答えた。渡されたのは、誰でもできるような雑務ばかりだった。私は書類をぼーっと眺めた。
後ろでは、経理が黙々と決算処理を進めている。カタカタと、私が数年前まで鳴らしていた音を響かせて。私は、本当に戦力外なのだ。後ろの経理部が羨ましくて、そちらを見ることもできなかった。同じ空間にいたくない。
経理に戻りたい。でも、時短で帰らなければならない私は、月末月初に残業できるわけでもない。出産前には分からなかった現実が、目の前にあった。
子どもを育てながら、以前と同じように働くことはできない。少なくとも、私はそんな準備をしていなかった。
「仕方ない」と言い聞かす
会社にはたくさん迷惑をかけてきた。妊娠中も、早めの休職を受け入れてもらった。受けた恩が何倍もある。だから、仕方ない。
時短だから。育児中だから。ブランクがあるから。すべて自分で選んだのだから。そうやって自分を納得させようとした。
けれど、本当は悔しかった。育児を理由に、十数年積み上げたものが軽い仕事に置き換えられることが。
「柔軟に対応してくれる」という言葉で、私の可能性が静かに閉じられることが。30代、育児枠にはめられた私には、そんなキャリアの選択肢はなかった。
朝礼で、後輩の昇進が発表された。以前私が教えていた後輩の昇進に、素直に拍手できない自分がいた。嫉妬ではない、と言い聞かせながら、どこかで確かに胸が締め付けられた。
片道一時間半。通勤電車の中は、唯一持てる自分の時間だった。電車はガタンガタンと心地よく揺れる。
産前、窓ガラスに映っていた幸せそうな女性はどこへ行ったのか。目の前に映る女性は、髪もボロボロで、頬が痩せていた。常に、キャリアと生活が交互に頭をぐるぐる回っていた。
携帯で「転職」「時短」などと検索すると、SHElikesというキャリアスクールのページをみつけた。
そこには、ライティングやデザイン、マーケティングなど、50種類以上のWebスキルが並んでいた。しかし、疲れ切った私には、そんなにたくさん学ぶ時間はない。また自分に言い訳をしていた。
SHElikesを利用する人のインスタは輝いていた。「私ならできる」「自分らしく生きたい」そんな想いが溢れていた。
「在宅ねぇ」キラキラしすぎていた。私には眩しすぎて、画面を閉じた。私はどこに向かっているのだろう。
家に帰ると、大泣きしている娘をおんぶし、子どもたちの洗濯物を洗濯機へ詰め込んだ。その瞬間、キャリアへの不安や悩みも全部忘れる。
あのとき毎日詰め込んでいたものは、洗濯物だけでなかったのかもしれない。息子が何度か何か言いに来ていたが、あまり覚えていない。子どもに笑顔を向ける余裕なんて、まったく無かった。
夜泣きが教えてくれたこと
半年ほど経ったころ、長男の夜泣きが再発した。そのとき、はっとした。私はこの半年、ちゃんと子どもの話を聞いていただろうか。甘えたい気持ちを、受け止めていただろうか。
真夜中、泣き声で目が覚めた。「ママ」と呼ぶ声が、以前より小さかった。抱きしめた途端に寝息を立て始める息子を見て、私も穏やかな気持ちになる。子どもの寝顔は本当に愛おしい。
息子の体は、あの頃と同じように温かかった。けれど、私の心は、あの頃とは違っていた。子どもは、何も変わらず私を求めている。変わってしまったのは、私のほうだったのかもしれない。
仕方ないと飲み込むたびに、私は少しずつ、自分の声を聞かないようにしていた。
私が卒業したもの
私は転職を決意した。経理に戻るためではない。出産前の私を取り戻すためでもない。母親だから仕方ないと、何度も自分を小さく納得させてきた私を、卒業するために。
通勤を減らしたい。その一心で求人を探すうちに、在宅という働き方を意識するようになった。ふと、以前通勤のとき見かけたSHElikesというキャリアスクールを思い出した。正直、半信半疑だった。それでも、未来を変えたい気持ちのほうが勝った。
もう、自分を犠牲にしない。もちろん、子どもたちのことも。あのとき見た受講生のように、自分らしさを取り戻し、人生を楽しみたい。そう思い、私は、もう一度学び始めた。今も道の途中だ。育児と仕事と学習を並行することは簡単ではない。
けれど、以前のように仕方ないと、飲み込む日々はどこにもない。目標があると、人は少し前を向けるから。学習は、思いのほか捗った。好きな時間に学べるスタイルが私の生活にはぴったりだった。
一番の収穫と言えば、スクールに入って、自分の好きなことを見つけたことだ。それがライティングだった。始めは画像編集やマーケティングを学んでみたけれど、まったくしっくりこなかった。しかし、ライティングに触れてみて、これで行きたい。そう確信した。
仕事のために始めたはずなのに、こんなに夢中になれるとは思わなかった。たくさんのジャンルを試せる環境があったからこそ、私は「好き」を見つけられた。
最近、息子の夜泣きは落ち着いている。私が笑っている時間が増えたことは、きっと伝わっている。十数年後、子どもたちが巣立つとき、「仕方ない」と言わなかった母の背中を、覚えていてくれたらいい。
私はいま、その選択を始めたところだ。私は、自分の手で、選択する自由を掴む。もし今、「仕方ない」と自分を納得させているなら、その言葉を卒業する選択肢は、きっとある。
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本記事はSHElikesの受講生を対象とした「SHEライターコンペ」の採用作品です。(執筆者 taichiさん)
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