起業の原点は、身近な人のひたむきな姿に惹かれたから。介護の未来を切り開く「海外向け視察コーディネート事業」が誕生するまで【NEXT FOUNDERS優秀賞・宗像このみさん】

SHEとポーラ・オルビスホールディングスの協働で2023年にスタートした、女性起業家の輩出を促すプロジェクト「NEXT FOUNDERS」。2回目の開催となるとなる今回は、SHElikes受講生でなくても起業意志があれば誰でも応募可能になり、ビジネスのビジョンやビジネスモデルを描くことに注力したプログラムとして、ブラッシュアップされました。

今回は、優秀賞を受賞した宗像このみさんにお話を伺いました。宗像さんは、超高齢化社会である日本の介護技術を生かすことができる、海外向けの視察コーディネート事業『100 Best Care Japan』(ベストケアジャパン)を提案。今回は、事業アイデア考案までの歩み、宗像さんが「NEXT FOUNDERS」のプログラムで得たものや、今後の展望について語っていただきました。

宗像このみさん プロフィール

大学時代、日本の介護環境に関わる研究に携わる。共同創業者の金子智紀さんと共に、全国の介護施設への訪問、論文執筆や国際学会での発表など、大学卒業後もライフワークとして、日本の介護環境の改善に向けた活動を行う。自身も数年前に認知症を患った祖母の介護を経験し、介護の課題を痛感。金子さんと共に、質の高い介護の実践のコツをまとめた書籍の制作や介護現場向けのワークショップを実施してきた。「NEXT FOUNDERS」では、これまでの研究の成果から見えた介護施設の財源確保の課題を解決し、海外からの介護現場視察の需要にも応える『100 Best Care Japan』を提案。2025年中に1回目の視察コーディネートを実施するべく、準備を進めている。

大学で知り合った先輩の情熱に惹かれて。「NEXT FOUNDERS」をきっかけに起業を決意

——この度は、優秀賞受賞おめでとうございます!まずは、「NEXT FOUNDERS」に応募したきっかけを教えてください。

ありがとうございます!これまで進めてきた日本の介護に関する調査・研究を踏まえて、共同創業者の金子と共に海外向けの視察コーディネート事業ができないか、イメージを膨らませていたんです。どうにか形にできないかと試行錯誤するなかで、ビジネスピッチやアクセラレータープログラムを探していたときに、金子が「NEXT FOUNDERS」を見つけてきてくれて。元々、SHElikesを受講してみたいと思っていたほど、SHEは気になっていた企業だったので、「面白そう!」と応募しました。

——そもそも、宗像さんが日本の介護環境の研究に関わるきっかけはなんだったのでしょうか?

大学に入学して出会った、金子の介護研究へのひたむきな熱意に影響されたことがきっかけです。同じゼミの先輩だった金子は、高校時代から介護一筋。私は英語が得意だったこともあって、早い段階で論文の翻訳をはじめ、介護に関わる調査・研究の手伝いをさせてもらっていたんです。

毎週のように全国の介護現場を駆け回り、調査・研究を進める金子のバイタリティを見て、純粋に日本の介護の現場に興味が湧いたんです。そんなとき、自分も家族の介護に直面。介護が抱える物理的、心理的な課題を目の当たりにし、介護の課題を解決したいという思いがより強くなりました。

大学卒業後は一般企業に就職しましたが、大学には研究員という形で籍を置き、ライフワークとして介護に関する調査・研究を続けてきました。数年間かけて温めてきた研究成果、学生時代からあった「一生をかけて介護に携わりたい」という覚悟が、「NEXT FOUNDERS」をきっかけに起業という形で結実したんです。

——学生時代から続けてきたこととはいえ、起業に対して不安はなかったですか?

介護の研究を始めたときも、「NEXT FOUNDERS」に挑戦したときも、自分の直感を信じていたので、大きな意思決定をした感覚はなかったんです。どちらも気軽な気持ちで挑戦して、全力で向き合った先に、起業という選択がありました。

金子や「NEXT FOUNDERS」で出会った方々も含めて、一人じゃないと思えていることもあって、不安よりも「知らない世界が広がっているんだ!」と生きている感覚がするような、ワクワクする気持ちが大きかったです。

なにより、私たちがこれまで見てきた素敵な介護事業者さんたちをもっと知って欲しいです。起業という形で私と金子が前に立ちますが、この事業の主役は介護事業者さんなんです。そう思うことで、多少感じていたハードルが無くなっていきました。

脳裏にあったのは、訪問した介護施設で働く人の姿。視察コーディネート事業を考案するまで

——改めて、宗像さんの事業提案『100 Best Care Japan』についてお聞きします。どのようなビジネスモデルなのでしょうか?

海外の介護事業者や政府関係者を対象に、日本の優良介護事業者への視察をコーディネートする事業です。Webサイトを通じた視察事業者のマッチング、視察日時の調整、アフターフォローまでがサービスに含まれており、視察した事業者が優良介護事例を現場で生かせるように事後研修まで行います。

日本の介護の課題の一つとして、介護施設の収入が介護保険に依存していることで現場では介護の質より量が求められ、高齢者の暮らしの質を大切にする施設が報われにくい現状があります。海外からの視察を通して別の形で収入を得ることができれば、介護施設は新たな財源を手にすることが可能になり、質の高い介護を持続可能なものにできると考えています。

——実際に現場からのニーズは大きいのでしょうか?

はい。むしろ見て、聞いて感じてきた現場の課題やニーズを満たすための事業になっています。

これまで、優良介護施設の事例を書籍としてまとめたり、それらを利用したワークショップを開催したりと国内向けの活動を行ってきました。そういった活動を国際学会などで紹介すると、「実際に行ってみたい」という声をもらうことが多く、「日本の介護についてもっと情報が欲しい」「実践のためのサポートが欲しい」というニーズがあったんです。でも、介護施設側には、視察の問い合わせに対応しきれないという現状がありました。

日本の素晴らしいケアを海外にも発信していくことで、海外事業者のニーズを満たしながら、日本の介護課題の解決にもつながるサービスになっています。

——ある程度、ニーズを踏まえたうえで考案した事業内容ですが、「NEXT FOUNDERS」のプログラムを通してどのように磨いていきましたか?

サービス自体のアイデアはありましたが、具体的な価格設定や売上の計画などはまったく決まっていませんでした。実はサービス名も「NEXT FOUNDERS」のプログラムを進めるなかで決めたものなんです。

「NEXT FOUNDERS」のプログラムの一環で、SHElikesの「起業コース」を受講しました。はじめは「元々事業アイデアはあるし」と悠長に構えていたんですが、お金の話が出てくると「まずい、何も考えていないぞ」と焦りました。金子と何度も話し合いを重ね、実際に海外からの視察を受け入れた経験のある事業者へのヒアリングも行い、金銭面も含めて事業内容を固めていきました。

プログラムを受ける前は、起業に関して「分からないことが分からない」という状態だったんですよね。起業コースを通じて基礎が学べるうえに、ピッチという形で事業内容を端的に、魅力的に伝えるためのポイントも知ることができ、本当にありがたかったです。

先輩起業家の話から授かった起業への覚悟と、SHEのコミュニティだからこそ感じたあたたかさ

——「NEXT FOUNDERS」のプログラムで印象に残っているものはなんですか

現役女性起業家2名が登壇された特別セッションが一番印象に残っています。私自身、介護に一生携わるという覚悟はありましたが、起業家になることについてはピンときていなかったんです。どれくらい厳しいものなのか、どんな苦労があるのか、深く理解できていませんでした。

特別セッションの中で、登壇した方々の資金調達の苦労、従業員を抱えて経営をしていくプレッシャー、忙しさやお金の苦労による自分の生活の変化など、経営者のリアルな姿を知ることができました。一方で「事業をやっていくんだ」という熱いパッションも感じられて、痺れるほどかっこよかった。「私はこの世界で生きていくんだ」と思えて、経営者になるうえでの緊張感と、確固たる意思、覚悟が芽生えるきっかけとなりました。

また、SHEのコミュニティのあたたかさにもとても救われました。事務局の皆さんや、他の参加者の皆さんが常に優しくサポートしてくださって、最終ピッチもピリピリとしたシリアスな緊張感は一切なく、リラックスして臨むことができました。

——「NEXT FOUNDERS」で一番苦労した点はどういった部分ですか?

やはり、ピッチ資料の作成ですね。最初のバージョンから20回くらい作り直したと思います。「NEXT FOUNDERS」が始まってすぐに、4名程度のグループを作成していただき、グループワークのなかで、資料をブラッシュアップしていきました。中間審査では、伝えたいことが伝えきれなかった悔しさが残ったので、金子と徹底的に話し合い、作り直しました。

ピッチの制限時間は5分なんですが、最初に作ったものは10分を越えてしまって。研究発表のように結果を羅列するものではなく、ペルソナや課題を明確にして、それらをどう解決できるのか。私たちの強みも的確に見せていく必要があるので、事業の芯はどこなのか、どの部分を残して説明するのかを考えるのに一番苦労しました。

実は私、人に頼るのが苦手なタイプなんです。でも今回は、早い段階で「一人じゃ無理だ」と痛感して、さまざまな人に意見を求めてブラッシュアップしていきました。1人で頑張り続けなくて本当によかったと思います。

「日本の介護は明るい」と伝えたい。仲間と一緒に希望ある未来へ

——今後の展望、アクションプランがあれば教えてください。

2025年1月に法人を設立し、まずはアジア諸国をターゲットに、視察・研修プログラムをスタートします。海外を対象にした事業なので、介護関係の国際展示会などのイベントとうまく連携していきたいです。毎年、日本に介護グッズを見に来られる海外の介護事業者さんが何万人もいらっしゃるので、イベントのあとに、足を伸ばして日本の介護施設を見てもらえるような流れを作り出せたら最高ですね。

私たちの事業は、日本の介護の現状を貴重な資源として捉えて、ビジネスに繋げていくものです。この事業を通して、「日本の介護は明るく、可能性がある」ということを伝えていきたいです。

——最後に、起業に挑戦する皆さんにメッセージをお願いします!

私が今回学んだのは、「何をやるかより、誰とやるか」が大切ということでした。自分が持っているネットワークは想像をはるかに超える力を持っていて、それに頼ることで自分だけでは到達できないところまで事業を磨くことができました。周りの人の力を借りることで逆に自分にしかできないことが見えてきたり、「NEXT FOUNDERS」をきっかけに周りの人に活動を応援してもらえたりと、自分がどんな人との繋がりの中で生きてきたかを考えることができた時間だったなと思います。

起業ってすごく勇気が必要だと思われるかもしれませんが、ちょっとだけいつもと違う世界をのぞいてみることから始まると思うんです。起業までの道筋を調べてみる、周りの人に話してみる、話を聞いてみるとか、知らない世界に少し触れるだけでも学ぶことが多いと思います。

まずは、いつもの枠からほんの少しだけ外側に出てみることを意識してみてほしいです。

ABOUT ME
ライター 古澤 椋子
鹿児島大学大学院水産学研究科修了。水産系社団法人にて、水産に関わる調査研究、行政との折衝などを経験したのち、水産系ベンチャーにて、広報を担当。2023年からフリーライターとして活動を始め、主にエンタメ系の記事を執筆。SHElikesでキャリア、マインド共に変化した経験から、SHEsharesのライターを務める。
エディター 橋本 恵梨奈
フリーランス編集者・ライター | SHElikes卒業生 | ヘアケア商材を扱うECサイト運営会社で勤務後、独立 | ご自愛を基点に、心地よく生きる人を増やしたい🌿

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。