SHEとポーラ・オルビスホールディングスの協働で2023年にスタートした女性起業家の輩出を促すプロジェクト「NEXT FOUNDERS」。SHElikesの起業コースの受講を通して事業内容を固め、現役女性起業家の特別セッション、ピッチ指導などを通して、起業家に必要なマインドとスキルを身につけられるプログラムになっています。
今回は、最優秀賞を受賞した黒平紗弓さんにお話を伺いました。黒平さんは、AIを活用して婚前契約の内容のすり合わせ、専門家相談までを完結できるリーガルテックアプリ『なぶしゃる』を考案。今回は、起業にかける想い、黒平さんが「NEXT FOUNDERS」のプログラムで得たもの、今後の展望について語っていただきました。
黒平紗弓さん プロフィール
大学卒業後、大手信託銀行に入社。5年に渡り、不動産戦略コンサルティングと不動産仲介営業を経験する。独立を目指して退職し、2015年に伝統文化の継承と振興に取り組むための「株式会社サクラクラウンジャパン」を設立。伝統文化コミュニティメディア「KIMONO BIJIN」をリリースし、消費者と伝統文化事業者の架け橋として、着物インフルエンサーマーケティングや、国内外で多数のイベントのコーディネートなどの事業を行う。2023年夏に、自身が婚前契約書を締結したのをきっかけに、契約書作成にまつわる精神的、金銭的、作業的な負担を痛感する。同時に、婚前契約を締結することが、数多くのカップルのパートナーシップを支える重要なものであると実感し、リーガルテックアプリ『なぷしゃる』の開発に着手する。2度目の起業を行うために、法人設立の準備中。2025年内に『なぷしゃる』のベータ版リリースを目指す。
起業への憧れと現実。2度目の挑戦に至るまでにあった苦悩
——この度は、最優秀賞受賞おめでとうございます!まずは、「NEXT FOUNDERS」に応募したきっかけを教えてください。
「NEXT FOUNDERS」を知ったのは、ちょうど『なぷしゃる』の構想が固まり、最低限のプログラム開発がひと段落ついた頃だったんです。『なぷしゃる』の可能性を試すために、起業家向けのアクセラレーションプログラム*やピッチコンテストを探していました。同じく起業を目指す友人が、「NEXT FOUNDERS」の公式ページをシェアしてくれたんです。
SHE株式会社の代表である福田恵里さんは素晴らしい女性起業家として尊敬していますし、ポーラ・オルビス ホールディングスも世界展開する大企業。「ここなら、自分もプロダクトも成長できる!」と感じ、応募しました。
*起業家向けの事業成長を促すプログラム
——黒平さんは1度起業をされていますよね。1度目の起業にはどんな手応えがありましたか?
中学生の頃から、自分の行動力とアイデアで多くの人々の役に立ち、社会に貢献したいという憧れが強く、起業したいと思い続けてきました。1度目の起業は、これで理想的な生き方ができるんだ、夢が叶ったと感じたんです。
でも、現実はそう簡単ではありませんでした。わからないことだらけで、毎日手探り状態。共同創業者や支援者もいなかったので、悩んだり壁にぶつかったりしたときは、とても孤独で本当に大変でした。資金のほとんどを開発費に注ぎ込んでいたので、人を雇うことがあまりできず、自分のタスクが積み上がるばかり。開発のさまざまな問題に直面し、計画から大幅に遅れ、目指していたサービスにならず、資金も底をつきかけました。
開発が進まないから、目指していた事業化ができない。資金繰りを気にして、人を巻き込むことができない。負のスパイラルに陥って、絶望の淵に立たされた気分でした。
なんとか現状を打開しなければと、まずは経営に関する知識を学び直すために起業家向けのアクセラレーションプログラムを受講したんです。そのなかで、社会にインパクトを与えるサービスを作るために、会社を急成長させることの重要性に気付かされ、そのために金銭面を考えた事業計画をしっかり立てることと、ビジョンや志を共有し合える仲間をつくることの大切さを改めて学びました。『なぷしゃる』の事業案を思いついたとき、この学びを生かして再び起業し、理想の経営と社会への貢献を実現したいという強い思いが生まれました。
——反省点が多かった1度目の起業だったのですね。もう一度挑戦することは怖くなかったですか?
怖かったし、ものすごく不安でした。2度目ですし、もう失敗したくない気持ちが大きかったです。ただ同時に、『なぷしゃる』というサービスが自分の中でもしっくりくるもので需要も、社会的なインパクトもあると思っていました。なにより、自分のアイデアで社会に貢献する、起業して成功する夢が諦められなかったんです。
「NEXT FOUNDERS」でいただいた事業に対するフィードバックや最優秀賞受賞という結果も、不安を打ち消すことができた理由になっています。
自分と相手を守るために締結した婚前契約がビジネスの種に
——改めて、黒平さんの考案したリーガルテックアプリ『なぷしゃる』についてお聞きします。どのようなサービスなのでしょうか?
リーガルテックアプリ『なぷしゃる』は、婚礼の誓いを、AIの力を借りて明文化できるアプリです。パーソナライズされた質問に答えていくことで、婚前契約書の内容が作成できる設計で、パートナーとの考えの相違があった場合は、AIが合意形成を促し、アプリが最終的な文章作成までをサポートします。
弁護士や行政書士など、専門家への相談やオンライン相談の予約もアプリでカバー。UIデザインも結婚のロマンチックな雰囲気を損なわない親しみやすさを重視し、婚前契約書のデザインもテンプレートから選択できます。生涯のパートナーとお互いの期待や責任を明確にしながら、楽しく結婚の誓いを結べる設計です。
結婚前のカップルや事実婚カップル、同性カップルを対象にしたtoC、アプリに登録してもらう専門家、結婚式場、結婚相談所などへのサブスクリプションサービスなどのtoBの両面から、収益を得る想定です。
——どういったきっかけで考案されたアプリなのでしょうか?
私自身が、2023年夏に50ページに渡る婚前契約を締結して、国際結婚したのがきっかけでした。婚約した時点で起業家でしたし、会社の権利などの自分が守りたいものもありました。起業をしていることで相手に迷惑をかけることも避けたかったので、婚前契約を行ったんです。スピード国際結婚だったので、夫側も結婚に対する多くの不安がありました。
実際に婚前契約書を作成するなかで、互いへの理解も進み、結婚への不安も解消されていきました。一方で、大きな手間と時間がかかり、金銭的にも心理的にも負担が大きかった。互いにとって有効な手段なはずなのに、堅苦しいし、ストレスがかかる。これでは人に勧められない、もっと手軽にならないかと思ったのが、アプリ開発の原点でした。
私自身の経験ももちろんですが、周りに離婚時の条件のすり合わせや結婚生活での不均衡さに悩んでいる人が多くて。『なぷしゃる』を通して、婚前契約がスタンダードになれば、さまざまなパートナーシップの課題解決につながるのではないかと考えています。
——実際にアプリを開発してから「NEXT FOUNDERS」に臨んだそうですね。「NEXT FOUNDERS」を通してどのように事業を磨いていきましたか?
長年エンジニアに開発を任せていましたが、テックスタートアップとして、代表である私がシステムを理解し、ある程度プログラミングができないといけないだろうと思い、勉強して2024年夏頃に最低限のサービス内容を含んだアプリを完成させました。サービスについての構想を固めてから「NEXT FOUNDERS」に臨んだので、プログラムの中ではピッチ資料を磨き込む作業に注力していました。5分間で、事業の魅力と自分の思いを伝え切らなくてはならないのがとても難しかったんです。
「NEXT FOUNDERS」はさまざまな方から、フィードバックをもらう機会があったので、とてもありがたい環境でした。ずっとサービスについて考えていたので、考えが凝り固まってしまっていたのですが、客観的な視点でピッチに入れるべきところ、入れないところを整理することができました。
「NEXT FOUNDERS」で得た自信。渦巻いていた不安を払拭できた
——「NEXT FOUNDERS」のプログラムで印象に残っているものはなんですか?
「NEXT FOUNDERS」運営者の前澤さん、NFS1期生で最優秀賞を受賞された寺門さんにご担当いただいた、最終ピッチ直前のメンタリングが印象に残っています。事業がスケールできる具体的なポイントと実現可能性をさらに明確に表現しつつ、私自身の熱意とストーリーを合わせて示せるアドバイスをもらいました。
ピッチを見た方からは、「一番熱意が伝わって、インパクトがあった」「言葉選び、着眼点がよかった」とコメントをいただき、まさにお二人にアドバイスをいただいた箇所だったので、感謝の気持ちでいっぱいです。
また、最終ピッチ会当日の運営やサポートも印象的でした。会場にはたくさんの投資家の方がいらっしゃっていて、素敵な出会いに恵まれました。挨拶させていただいたり、SNSを交換したりなど、次につながる出会いの場を作っていただけたのもありがたかったです。
——「NEXT FOUNDERS」のプログラムで得たものはなんだと思いますか?
『なぷしゃる』を事業として展開していく自信を授けてもらえたと思っています。再度起業することはやはり不安で、「本当に上手くいくのだろうか」と心配になることが何度もありました。
最終ピッチの結果はもちろんですが、中間審査でSHE代表の福田さんからいただいた「良いパートナーシップの構築という大きな社会課題の解決につながるとても良いサービスですね」というお言葉も自信につながっています。周りの女性起業家たちの熱量も刺激になり、『なぷしゃる』を普及していくという大きな目標に挑戦する覚悟が決まりました。
「なぷしゃるで幸せな結婚を実現」そのために情熱的な仲間を集めたい
——今後の展望、アクションプランがあれば教えてください。
再度起業し、『なぷしゃる』のリリースに向けて動き出します。現在、最低限の機能を含んでいるアプリを完成させている状態なので、テストユーザーを募って検証を行い、その結果を元に、アプリの内容に磨きをかけてベータ版のリリースを目指したいです。『なぷしゃる』が日本の市場で求められる状態を目指しつつ、海外展開も着実に進めていきます。
最終的な目標は、「なぷしゃるのおかげで理想の結婚を叶えられた」という幸せの声を世界中から集めること。ですが、ここから先の夢を叶えるのは、一人では難しいと分かっています。信頼できる仲間を作ることの大切さを実感しているので、『なぷしゃる』で世界中のカップルを幸せにしたい、実績でそれを証明するんだ!という熱い想いを持った仲間を集めたいです。
——最後に、起業に挑戦する皆さんにメッセージをお願いします!
私のモットーは、「やらずに後悔するよりやって後悔する方がいい」です。私は中学生の時から起業に憧れていましたが、大学卒業後銀行に5年間務めていました。その間、ずっと「本当は起業したい」という気持ちがくすぶっていたんです。会社を辞めて起業するのは勇気が必要でしたし、起業後も楽しいことばかりではありませんでした。
でもやっぱり起業してよかった、一歩踏み出してよかったという気持ちのほうが大きいんです。それは起業して、自分のアイデアで社会をよくしている実感を持つことが、私の理想の生き方だったから。
起業に少しでも挑戦したいと悩んでいるなら、一歩踏み出してほしいです。どんなに不安で、苦しく辛いことがあっても、失敗を恐れずに強い意思を持って冷静に前を向けば、道は開けます。長く持ち続けている夢、やってみたいけど不安でモヤモヤしていることがあるなら、ぜひ挑戦してみてほしいです。