顧客の声を意味する「VOC(Voice Of Customer)」を活用して、効果的なマーケティングを行う企業は少なくありません。今回の記事ではVOCを活用するメリットや収集方法、事例や注意点などを紹介します。
この記事を参考に、顧客の声をうまくマーケティング活動に活かしてください。
VoCとは
VoCとはVoice Of Customerの略で、「顧客の声」を意味するマーケティング用語です。製品・サービスや顧客対応、ブランドなどに対する顧客の率直や意見・コメント・口コミなどを総称したもので、たとえば次のようなものがあります。
- 製品・サービスに対する感想
- 営業員やカスタマーサポートなどの顧客対応に対する意見
- ブランドや製品イメージに対するコメント・意見
- 広告・宣伝やイベントなどに対する意見
VoCを通じて、顧客が満足もしくは不満に感じているポイント、製品や企業・ブランドに対して顧客が持つ印象を把握できます。営業員およびコールセンターと顧客間のコミュニケーション、SNS、ブログ、レビューなどさまざまな手段で収集可能です。
VoCをマーケティングに活用するメリット
VoCをマーケティングに活用すると、次のようなメリットが期待できます。
- 顧客ニーズを捉えた施策の実行ができる
- 顧客満足度の向上につながる
- 競合他社との差別化を図ることができる
VoCを活用することで、顧客対応やブランディング、製品・サービスなどを顧客に寄り添う形で改善できます。
顧客ニーズを捉えた施策の実行ができる
VoCを通じて、ターゲットとする顧客が製品やサービスに求める要素、既存の製品において満足しているポイントや足りてないポイントなどを把握できます。
たとえば、お菓子メーカーであれば、VoCを反映することで味を調整したり健康志向に応えるために糖質を制限したりといった工夫をすることにつながります。
製品そのものだけでなく、SNSのVoCを調査して、パッケージデザインをポジティブな反応が得られるものに変更するなどの方法もあるでしょう。
顧客ニーズをふまえて、製品・サービスやマーケティング施策などを適切に改善できるのが、VoCを活用する利点です。
顧客満足度の向上につながる
VoCを活用すれば、顧客満足度を効率よく改善できます。VoCの中には、顧客が満足・評価したポイントや不満なポイントに対するさまざまな意見が寄せられます。
不満に感じているポイントを速やかに修正し、評価されているポイントを伸ばせば、顧客満足度が改善するでしょう。これは、製品・サービスそのものに限ったことではありません。
たとえば「カスタマーサポートが混み合っていて疑問解消に時間がかかる」という意見が寄せられたら、カスタマーサポートの増員、チャットシステムやFAQ機能の充実させて顧客が非対面で課題を解決できるようにするなどの対策が考えられるでしょう。
VoCを土台とすることで、顧客満足につながらない無駄な対策・施策を実行せずに済みます。
競合他社との差別化を図ることができる
自社しか入手できないVoCを積極的に活用すれば、競合他社との差別化にもつながります。VoCは自社が接点を持った顧客から得られる生の声なので、基本的に競合他社はその情報を知りません。
競合他社が知り得ない情報を基に対策を進めることにより、顧客が自社に対して抱いているニーズを製品・サービスやマーケティング、顧客対応などさまざまな企業活動に的確に反映できます。
独自で入手したVoCを生かすことで、きちんと顧客に向き合いながら他社と差別化したサービスを提供することができるでしょう。
VoCの収集方法5つ
VoCを収集する方法はさまざまですが、たとえば以下の5つのチャネルに豊富なVoC情報が集まります。
- アンケート調査
- インタビュー
- 顧客レビューサイトの分析
- フォーカスグループ
- SNS
それぞれの特性を理解して効率良くVoCを集め、マーケティングに活かしましょう。
①アンケート調査
アンケート調査は、VoCを集めるために従来から実践されてきた手法です。商品の購入者やカスタマーサポートの利用者、イベント参加者などさまざまな人を対象に情報を集められます。
かつては紙で行うのが主流でしたが、近年ではメールやWebサイト経由で収集するアンケートも増えています。カスタマーサポートにチャット機能を導入している場合は、チャットボットにアンケート機能を搭載するのも有効です。
②インタビュー
ターゲットを決めて話を聞き、VoCを収集するインタビューも有効な方法です。商品・サービスの購入者・利用者を対象とするほか、年齢や属性などから特定のターゲットを決めて街角で対象となる方へ意見を聞く方法もあります。
対面で実施する方法のほか、電話やWebミーティングツールを活用したインタビューも可能です。インタビューなら、まだ顧客となっていない層も含めてさまざまな対象をターゲットとして実行できます。
一方で、自社や製品に対するロイヤリティや属性によって得られる内容が変わりやすいため、VoCを集める目的を明確にしたうえで適切な対象にヒアリングし、有効なVoCを収集する必要があります。
③顧客レビューサイトの分析
口コミや評価を書き込める顧客レビューサイトも、VoCを獲得する有効な分析対象です。さまざまな店舗に対応した「エキテン」、飲食店でいえば「ぐるなび」のように、店舗やサービス紹介と共に利用者のコメントや評価を掲載しているサイトは多数存在します。
顧客の多くは、製品・サービスに満足しているからこそ使い続けているため、企業が顧客に直接VoCを集めようとすると、ポジティブな意見が多く集まる可能性などがあります。一方で、第三者が運営する顧客レビューサイトを分析すれば、より客観的な意見を収集可能です。
④フォーカスグループ
フォーカスグループを実施してみるのも、VoCを集める有効な手段の一つです。フォーカスグループとは、ターゲットに即した属性の人を複数人集めて、モデレーターの進行のもとディスカッションを行う形式です。
複数人に同時に話を聞いて、議論することで意見が深まったり、より方向性が鮮明になったりする効果が期待できます。
もともとは対面で実施するのが基本でしたが、現代ではZOOMなどのWebミーティングツールを活用すれば、オンライン上でフォーカスグループを実行可能です。
⑤SNS
SNSも、幅広い相手からVoCを集める有効なツールとなります。X(旧Twitter)、Facebook、Instagramなど、さまざまなSNSにアカウントをもつ企業が増えていますが、VoCを収集するのが、アカウントの利用目的の一つです。
SNSであれば、顧客以外も含めて企業が想定するターゲット層へ情報を発信することや、また意見の集約が可能です。
また、会社名・商品名などで検索してユーザーからの発信内容を調べたり、大量のテキストから自分が必要な情報を抽出するツールである、テキストマイニングツールを使うのも有効です。
一方で、信憑性に欠ける情報を発信するユーザーがいるリスクもあるため、信頼の置ける意見をうまく集約するのも重要です。
VoCをマーケティングに活用した事例
多くの企業がVoCを積極的にマーケティングに活用していますが、ここでは以下の2社の成功事例を紹介します。
- ライオン株式会社
- トヨタコネクティッド株式会社
VoCの活用方法を検討している方は、ぜひ2社の事例を参考にしてください。
ライオン株式会社
ライオン株式会社*1では「ソーシャルリスニング」と称して、SNSを通じてVoCを積極的に収集しています。ターゲットとする属性から精度高く信頼できる意見を収集すべく、通信系企業のNTTコム オンラインに調査・分析を委託してVoCを集めています。
NTTコム オンラインからは日報としてSNSを通じて集められたVoCに関する分析レポートが日々届きます。必要に応じて共有すべき情報・対応事項を社内で整理して、日々の業務活動に反映しているのです。
なお、ライオンは海外でも事業展開しているため、海外のSNSもソーシャルリスニングの対象にしています。SNSからVoCを収集することで、世界中の消費者ニーズや業界動向を俯瞰して分析できるようになりました。
トヨタコネクティッド株式会社
トヨタコネクティッド株式会社*2はトヨタ自動車の関連会社としてオーナーへのカスタマーサポートをおこなう企業で、年間90万コールもの膨大なコール応対を行っていながら、VoCを活用して応対時間を平均30秒ほど短縮させることに成功させました。
同社ではCRMシステム(顧客管理をおこなうツール)を一新し、オペレータの応対履歴をVoCとして蓄積しました。VoCをもとにした分析データを活用して、応対時のオペレーターの負荷削減や応対プロセスの削減を実施しました。
その結果、対応スピードが加速し、応対時間の短縮を実現したのです。応対の迅速化により顧客満足度の向上や一人が対応できる顧客数の増加といった効果をもたらしています。
VoCをマーケティングに活用する際の注意点
VoCをうまくマーケティングに活用するためには、次の4点に注意が必要です。
- VoCを収集する目的を明確にする
- 顧客の範囲や属性を明確に設定する
- 回答に偏りがある可能性に注意する
- 適切な分析を行う
以上を実践すれば、適切なVoCをうまく収集しマーケティングに役立てられます。それぞれの注意点について、詳しくみていきましょう。
VoCを収集する目的を明確にする
まず最初に、VoCを収集する目的を明確にしてください。収集する目的によってVoCを集めるターゲットや分析方法などが変わってくるため、目的が不明確なままVoCを集めるのは効率的ではありません。たとえば次のような目的が考えられます。
- 商品・サービスの改善
- 顧客対応品質の向上
- 業務効率化
- 顧客満足度の向上
- 顧客基盤の拡大
- 顧客ロイヤリティーの向上
顧客の範囲や属性を明確に設定する
VoCの収集目的をふまえて、VoCを集める相手のターゲット属性を整理しましょう。たとえば、若年層へのマーケティングを強化するのが目的なら、顧客の中でも若い年齢層から充填的にVoCを集めるのが有効です。
若い人が盛んに使用するSNSを通じたVoC収集などもマーケティング施策に役立つでしょう。また、たとえばマーケティング課題が顧客基盤の拡大にある場合などは、見込み顧客やターゲットとする一般消費者のVoCも集めると、さらに精度の高いマーケティング施策を打ち出せます。
回答に偏りがある可能性に注意する
全ての顧客や消費者の声を聞くことはできないため、VoC調査では一部の顧客のサンプルをもとに分析するケースが少なくありません。
選ばれたグループは、顧客全体の意見を代表しているとは限らず、サンプルにより得られるVoCの内容に偏りが生じる恐れがあります。公平性を意識してサンプリングし、また繰り返し行って客観的な意見を収集するように努めてください。
適切な分析を行う
集めたVoCを分析したり、データを変換したりして、マーケティングや商品開発、顧客対応などに役立てていきましょう。
たとえば、VoCを定量データ化して、顧客満足度の高さを測る、顧客が特に不満に感じているポイントを洗い出すといった方法が考えられます。
また、音声データのVoCを記事やドキュメントにまとめて情報共有ツールで管理すれば、カスタマーサポートなどが参照して効率良く安定した品質で顧客対応が出来るようになるでしょう。
簡易的な集計であればエクセルなど汎用的なオフィスツールでも可能ですが、本格的にVoCを活かして他社と差別化させたいなら、VoCの分析機能を有するシステムの導入を検討するのも良いでしょう。
VoCを有効に活用するためのポイント
VOCを有効活用するためのポイントは、次の3点です。
- 収集には異なるチャネルや手法を使用する
- データを分析と洞察の抽出を行う
- 反応と改善を迅速に行う
以上のポイントを実践して、VoCを活用して競合他社との差別化を実現しましょう。
収集には異なるチャネルや手法を使用する
SNSやアンケート、インタビューなど異なる複数の方法でVoCを集めてください。VoCを集めるチャネルは、それぞれに特徴があります。
たとえば、SNSは既存顧客以外も含めた幅広い層から声を集められますが、表面的なコメントが多く発信情報の奥にある感情や考えを拾うのには適していません。
インタビューは一度に集められるVoCが限られる一方で、より深く回答者の意見を集約できます。VoCの活用目的に照らし合わせながらも、複数の方法を組み合わせることで、マーケティングや事業に役立つVoCを集められるでしょう。
データ分析と洞察の抽出を行う
VoCをそのまま保管するよりも顧客満足度などのデータ分析や、VoCの裏にある顧客の深層的な考え・ニーズをまとめた方が、よりVoCを有効活用できるでしょう。VoCは時に膨大な音声データやドキュメントデータで収集されるため、そのままで活用するのは困難です。
適切なデータ分析と洞察の抽出により、その後の顧客対応の改善や新たなマーケティング施策の打ち出し、製品・サービスの見直しなどさまざまな対策に活用できるようになります。
反応と改善を迅速に行う
VoCで集めた顧客の意見は、可能な限り速やかに施策に活かしましょう。顧客の考えは移ろいやすいため、マーケティング手法や製品の改善などに時間をかけているうちに、顧客の考えが変わってニーズに合わない対策となる恐れがあります。
あらかじめVoCの収集・分析・活用プロセスを整理しておいて、迅速に対応してください。対策の実施後は、VoCを改めて集めて効果検証を行うと良いでしょう。施策の効果を確認したうえで、さらに改善すべきポイントを洗い出してください。
VoCの収集と改善を早いペースで計測していくことが、競合他社との差別化や顧客満足の改善につながります。
VoCをマーケティングに有効活用して顧客に沿った対策を
VoCを活用すれば、今の顧客がもつ率直な意見をもとに対策が可能です。自社のマーケティングを継続的に改善し、顧客満足度やロイヤリティの向上に役立つでしょう。
また、VoCを活かして製品・サービスをブラッシュアップすれば、競争力も高まります。VoCの収集目的と方法、分析方法などを整理したうえで、自社のマーケティング戦略の策定に取り入れてください。
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出典
*1「NTTコム オンライン |導入事例|ライオン株式会社様」より
*2「VOC蓄積とデータ活用の可能性を広げる「FastHelp5」~トヨタのカーライフ支援に必要なCRM基盤として活躍~ | 導入事例 | テクマトリックス株式会社」より